
未来世界で罪を犯し、現在に送られてきた少女。他人に認識されることもなく、孤独に過ごすはずの少女の運命は、ひとりの少年との出会いで大きく変わっていく――。
角川スニーカー文庫から刊行されている水口敬文の同名小説を原作にした映画『憐 Ren』は、SF的な設定のもと、思春期の少女・少年の揺れ動く心理を描き出していく。
主人公の少女・憐を演じるのは、ファッション雑誌「nicola」の専属モデルをつとめ、同世代の少女たちを中心に絶大な人気を誇る岡本玲。今年3月リリースのデビューCDも好調で、さらに多方面での活躍が期待されている新鋭だ。映画初主演となる本作では、思春期の少女の不安定さを体現し、女優としての優れた資質を見せている。
憐を取り巻くふたりの少年には、ミュージカル「テニスの王子様」で注目を集めたふたりが起用された。憐の存在を不思議に思いつつ、彼女と正面から向き合う玲人(あきひと)には、映画『妄想少女オタク系』『カフェ代官山』で人気の馬場徹。物語の鍵を握る謎の転校生・シュウには『妄想少女オタク系』や現在放送中のテレビドラマ「ごくせん」の中山麻聖(なかやま・ませい)。確かな表現力を持つふたりが、それぞれに複雑な内面を抱える少年をたくみに演じている。
監督は、故・小林悟監督に師事し、ピンク映画で監督デビュー、2007年に『妄想少女オタク系』で一般作デビューを果たした堀禎一。俳優の演技を丹念に捉える演出や、長回しを多用した構成は往年の“映画らしさ”を存分に感じさせるものであり、特に終盤の10分を越えるワンカットは圧巻だ。
若い世代の俳優たちの魅力を、堀監督の堅実な演出で引き出した本作は、独特の叙情感にあふれた青春映画となっている。

生徒たちの会話や笑い声で騒がしい高校の教室で、ひとり、クラスメイトたちの輪から離れ、様子を静かに眺める女子生徒・朝槻憐(あさつき・れん:岡本玲)がいた。
風邪で学校を休んでいた鳴瀬玲人(なるせ・あきひと:馬場徹)が数日振りに登校すると、クラスには見覚えのない女子生徒がいた。クラスメイトも教師も、その女子生徒・憐が以前からクラスにいたかのように振舞っている。さらに奇妙なことに、クラスメイトたちは学校を出ると憐に関する記憶を失ってしまうのだ。学校の外で憐のことを認識できるのは、玲人ただひとりだけだった。
憐の存在を不思議に思い、彼女に近づいていく玲人。憐は、自分が500年後の未来から送られてきた囚人であると告げる。クラスメイトや教師、一緒に暮らす祖母は、未来世界から記憶を操作されて、憐とずっと過ごしてきたと思い込んでいるというのだ。そして、学校と自宅以外で憐と関わった人間は“消去”されてしまうと……。
自分の置かれた境遇に苦悩する憐を、玲人はまっすぐに受け止め、ふたりの距離は縮まっていく。そして憐はほかのクラスメイトとも親しさを増していき、明るい笑顔も見せるようになっていた。
そんなある日、クラスに七緒修司(中山麻聖)という生徒が転校してくる。修司=シュウがやってきてから、憐と玲人の周囲に変化が生じはじめていく。果たして、シュウと憐、玲人の間には、どんな関係があるというのだろうか?