
ある日突然、余命わずかの宣告を受けた女性。彼女は夫や子供たちとともに「その日」までを懸命に生きる……。
「涙が止まらない」と絶賛をもって迎えられた直木賞作家・重松清の連作短編小説「その日のまえに」が、最高のスタッフとキャストによって映画化を果たした。
メガホンをとるのは日本映画の誇る至宝・大林宣彦監督。“死”をドラマティックに描くのではなく、誰にでも普通に訪れる“その日”として厳しく見つめながら、その恐れや悲しみを軽やかに飛び越える斬新な映像表現を見せる。
脚本は、劇場用映画では大林監督とのコンビは20年ぶりとなる市川森一が担当。映画化のオファーが殺到しつつも映像化困難といわれた原作を、見事に映像の世界へと置き換えてみせた。
物語の柱となる夫婦の夫・健大を演じるのは舞台、落語、狂言など、コメディアンの枠を越えた活躍をみせる南原清隆。かねてより大林映画のファンである南原が『水の旅人 侍KIDS』以来となる大林映画出演で、主演という大役をつとめた。
そして妻のとし子にはテレビドラマ、舞台、映画と幅広く活躍する永作博美。話題作への出演が続き、映画女優として多くの監督からラブコールを贈られる永作が、初の大林映画映画に挑んだ。
さらに、筧利夫、今井雅之、風間杜夫、原田夏希、柴田理恵、根岸季衣ら、個性派、実力派の豪華俳優陣が群像劇を彩る。
また、独自のスタンスと音楽性で高い支持を集めるバンド・クラムボンが主題歌を担当している。
今年70歳を迎え「70代の新人」を自称する大林監督が、“生と死”に正面から向き合った、壮大な人生シンフォニー。それは、観客をいまだ経験したことのない、感動の新地平へといざなう。

日野原健大(南原清隆)は、デザイン事務所を営む売れっ子イラストレイター。妻のとし子(永作博美)は売れない時代から健大を支え続けてくれたよきパートナーで、いまは育ち盛りの息子・健哉(大谷燿司)と大輔(小杉彩人)に手を焼く毎日だ。
ある日、体の不調を感じたとし子は、病院で検査を受けた結果、余命がわずかであるとの宣告を受ける。戸惑い、絶望するとし子と健大。しかし、ふたりは残された時間を懸命に生きようと話し合う。来るべき「その日」を迎えるための準備。そのひとつが、かつてふたりが住んでいた町を訪れることだった。
ふたりは18年ぶりに“浜風駅”へと降り立つ。主治医の永原(風間杜夫)から半ば強引に退院を許可してもらったのだが、とし子は健大の心配をよそに懐かしい町を目にして小走りをはじめるほどの元気さをみせる。
変わってしまったもの、変わらないもの。夫婦としての人生をはじめた町を巡り、ふたりはそこから「その日」までの人生を始めようとする。
とし子の再入院をまえに、日野原家の食卓ではいつもと変わらぬ一家団欒の会話が交わされていた。とし子は「元気なままのお母さんでいたい」と病状を話すことを頑なに拒んでいた。そんなとし子に大輔は無邪気に甘える。翌日、病院に向かうとし子を見つめる健大の眼差しには、悲しみではなく、穏やかさが満ちていた。
数日後、永原から連絡が入る。ついに「その日」が間近に迫ったのだ……。