
1941年に映画美術の世界へ入り、これまで参加した劇場映画は230本以上。名だたる名監督の作品から若手監督の作品まで幅広く参加し、91歳となったいまも現役の美術監督として活躍する木村威夫は、まさに日本映画界の至宝というべき存在である。
2004年から監督として4本の短編映画を完成させた木村威夫は、90歳を迎えた2008年『夢のまにまに』でついに長編劇場監督デビューを果たした。『黄金花 −秘すれば花、死すれば蝶−』は“映画監督・木村威夫”の長編第2作である。
主人公は80歳の植物学者・牧草太郎。老人ホーム “浴陽荘”で牧と老人たちが過ごす、奇妙で不思議な日々が描かれる。
牧草太郎役には渋さあふれる演技で知られる名優・原田芳雄。そして浴陽荘の介護士長に松坂慶子。浴陽荘の老人たちに川津祐介、三條美紀、松原智恵子、絵沢萠子、野呂圭介、飯島大介、牧口元美、真実一路、中沢清六という個性豊かな俳優陣が共演。さらに院長役の長門裕之、巡礼役の麿赤兒が圧倒的な存在感を発揮する。
本作の制作には、林海象が学科長をつとめる京都造形芸術大学映画学科が協力し、同学科講師をつとめる熟練のスタッフと学生が制作に参加。林海像が構想し木村監督が命名した映像集団“北白川派”の第1作となった。そして木村監督は本作を機に、自身を中心としたグループを“木村威夫 花座”と命名。本作は“木村威夫 花座興業”として公開される。
木村監督は“フォルム主体の作品”であると本作を表現する。90歳を越え、なおも既存の映画文法にとらわれない映画作りに挑戦する木村監督。かつての日本の独立プロの作品を彷彿とさせるような、実験精神に満ちた作品の誕生だ。

老人ホーム“浴陽荘”で暮らす植物学者の牧草太郎(原田芳雄)は、ホーム職員の青年とともにホーム近くの森へヤマノイモを掘りに出かけた。その合間、青年が口にした「黄金の花を見た」という些細な冗談を真に受けた牧は、森の奥へと分け入ると小さな泉にたどり着き、そこで黄金色に光り輝く花を目にする。持っていたカメラで撮影しても花は写らない。やがてその花は牧の見る前で消えてしまった。
浴陽荘に戻った牧は、ホームの一同から80歳の誕生日を祝われる。浴陽荘には、物理学者老人(真実一路)、役者老人(川津祐介)、映画女優だったというおなお婆さん(三條美紀)、バーのママだったおりん婆さん(絵沢萠子)、板前老人(中沢青六)、質屋老人(牧口元美)、ピーナッツ老人(野呂圭介)、易者老人(飯島大介)、小町婆さん(松原智恵子)といった、一風変わった老人たちが、介護士長(松坂慶子)たち職員とともに暮らしていた。
誕生日の翌日、牧はテレビで流れているヒマラヤ聖女の映像の中に、またも黄金の花を見る。そして、牧の中で封印していたはずの青年時代の記憶が蘇りはじめる。学歴もなく、ただひたすらに植物学に没頭してきた若き日々。留学生であった若き恋人の思い出。戦後の混乱……。
そしてある日に、易者老人がホームで死を遂げる。ホームの老人たちとともに火葬場で易者老人を送った牧は、その夜、なにかに誘われるかのように、ときの流れを遡る、夢幻の旅へと出発する……。