
禅寺に身を置きながらもさまざまに迷い悩み、心穏やかになれない僧侶・浄念。かつてロックミュージシャンであった浄念は、自分には音楽が必要だと気づく。ライブをやると言い出した浄念を妻や子供、住職たちは心配しながら見守るが……。
『アブラクサスの祭』は、現役住職である芥川賞作家・玄侑宗久の同名小説を、原作者の住む福島を舞台に映画化した作品だ。
主人公の悩める禅僧・浄念役には、ミュージシャンのスネオヘアーが抜擢された。すでに『非女子図鑑』『つむじ風食堂の夜』などで映画出演も経験しているが、主演をつとめるのは初めて。現役ミュージシャンならではの存在感を見せるとともに、演技者としての非凡な才能も見せている。
共演は、浄念の妻・多恵に映画出演が続くともさかりえ、浄念がつとめる寺の住職・玄宗に名優・小林薫、玄宗の妻・麻子に本上まなみ、浄念を応援する菓子店の康平にほっしゃん。、康平の息子・隆太に村井良大と、ベテランから若手まで幅広いキャストが揃った。また、浄念の息子・理有役の山口拓をはじめ、地元オーディションで選ばれたキャストも多数参加している。
そして、この映画で重要な役割を果たすのが音楽だ。サウンドトラックは多くの映画音楽を担当する大友良英が担当。クライマックスのライブシーンでは、ボーカルとギターにスネオヘアー、ドラムに小松正宏、ベースに中尾憲太郎、ギターに會田茂一という豪華なメンバーが実際に観衆を前にライブ演奏をおこない、それを撮影・録音している。
監督は、東京藝術大学大学院映像研究科で黒澤清や北野武に師事した加藤直輝。深いテーマを扱いつつも、多くの観客が楽しんで観ることのできるエンターテイメント作品として完成させた。

ライブハウスで激しくエレキギターをかき鳴らす金髪の青年。やがて彼の耳に響いてくるノイズ。青年は、なにかに憑かれたように轟音を鳴らしステージを転げ回る……。
福島県の小さな禅寺の僧侶・浄念(スネオヘアー)は、高校の進路相談会で講演をすることになった。僧侶という道に進んだことについて語るはずが、講演は思わぬ方向に。その騒ぎは町でも噂となり、スーパーのパートで働く浄念の妻・多恵(ともさかりえ)もその話を耳にして気を揉む。
気落ちした浄念を住職の玄宗(小林薫)はあたたかく受け止めるが、浄念は「ここにいることが適切でない気がして」と弱音を吐く。心穏やかになれず、薬を飲みながら日々を送る浄念。そんな浄念の中に芽生えたのは、音楽への想いだった。
かつてロックミュージシャンだった浄念は「やっぱり俺には音楽が必要なんだ」と多恵に宣言する。多恵は反対するが、玄宗と玄宗の妻・麻子(本上まなみ)は音楽をやることに賛成してくれた。浄念は東京でのおつとめのついでに、昔馴染みのライブハウスを訪ねた。そこで浄念が気づいたのは「ここではなかったんです」ということ。
東京から戻った浄念は、いま暮らしているこの町でライブをやりたいと言い出した。浄念の音楽の激しさを知っているだけに玄宗もこれには困惑。ライブハウスもない町だが、浄念は菓子店の康平(ほっしゃん。)に会場となるスナック“こころ”を紹介してもらい、着々とライブの準備を始めていく。それを心配しつつも見守る多恵。
だが、ライブが近づいてきたある日、思わぬ報せが浄念の心をかき乱す――。