
自堕落な生活を送る母親の過度な干渉に苦しめられる20歳の専門学校生。引きこもりの娘を持ち万引きとセックスを繰り返す40歳の商社秘書。「娘」「母」それぞれの立場で親子の関係に悩みを抱えるふたりの人生は、いつしか交錯していく……。
『たとえば檸檬』は、海外の映画祭で大きな反響を呼んだ衝撃作『アジアの純真』の監督・片嶋一貴と主演・韓英恵が再びタッグを組み“親子”というテーマに挑んだ意欲的な作品だ。
主人公の専門学校生・カオリを演じる韓英恵は『アジアの純真』での発散していくような尖った激しさからは一転、内面に抱えるような“静”の烈しさを見せている。
もうひとりの主人公・商社秘書の香織を演じるのは有森也実。依存に陥っている不安定な女性の姿を、迫力充分に、同時に繊細に、まさにさらけ出すかのように表現してみせた。
共演には、映画・ドラマへの出演が続く若手男優の綾野剛、幅広い役柄で知られる室井滋、海外での活躍も多い伊原剛志や、マルチな活動をおこなう内田春菊、比類なき個性を発揮する古田新太、「仮面ライダーウィザード」主演で注目を集める白石隼也ら、多彩な顔ぶれが揃った。キャストひとりひとりの力のある演技が、厚みのある作品世界を生み出している。
過干渉や依存、歪な親子関係……現代の社会に存在する問題を描きつつも『たとえば檸檬』は驚愕のストーリー展開が観る者を引きつけて放さない優れたエンターテイメント性も持った作品として完成した。そして『たとえば檸檬』というタイトルの意味が明らかになるとき、静かで深い感動が訪れる。

カオリ(韓英恵)は専門学校で彫金を学んでいるが、学費を滞納し退学目前となっていた。アルバイトの給料では学費を払うことはできない。保険の外交員として働く母親(室井滋)は、自堕落な生活を送る一方でカオリの生活に深く干渉してくるが、経済的な援助は一切おこなわなず、学費を母親に頼ることもできない。
カオリの事情を知った同級生は、カオリをクラブへと連れていく。ヤバい仕事を手伝わされそうになったカオリはその場を逃げ出すが、クラブにいた男・石山(綾野剛)は、カオリが作った指輪を見てその才能を確信していた。そして石山は、学費を援助する引き換えに自分の注文どおりの指輪を作らせようとするのだが……。
派手な化粧と服装で自分を飾る香織(有森也実)は、高級ブランドの店で次々と商品を自分のバッグへと投げ込んでいく。大手商社で秘書として働きつつ、会社の役員に求められるまま体を重ね、若い男に金を貢ぐ香織。20歳になるひとり娘は家に引きこもったままだ。
ストレスから逃れるかのように万引きを繰り返す香織は、ある日ついに警察に捕まる。取り調べを担当した刑事の河内(伊原剛志)は万引きを繰り返すのは依存症であると指摘し、香織は河内に反発を覚えつつも紹介されたメンタルクリニックに通うようになる。
母との関係に苦悩するカオリ。そして香織もまた、亡母の影に苦しめられていた。カオリは石山と、香織は河内と。ふたりの“かおり”は、それぞれ男との出会いによって大きく人生を変化させようとしていた……。