
おちこぼれのテレビディレクターふたりは、富士の樹海へと向かった。自殺志願者を見つけ、その生の声を撮影する。それが彼らの考えた企画だった。彼らの作った番組は高視聴率を獲得するのだが……。『樹海のふたり』は、自殺の名所として知られる富士の樹海で取材をおこなうディレクターふたりを中心に“生きる”ということを描くヒューマンドラマだ。
監督はテレビドキュメンタリーで数々の賞を受賞してきた山口秀矢。いまから10年前、山口は富士樹海の取材を続けるふたりのフリーディレクターに出会った。人の命を仕事のネタにすることに葛藤する彼らの姿勢に触発された山口は、彼らの実体験を元に映画を作ることを決意。それから10年を経て、初の劇映画監督作となる『樹海のふたり』が完成した。
主人公のふたりのディレクターには、お笑いコンビのインパルス=板倉俊之と堤下敦が起用された。映画初主演となるふたりだが、それぞれに悩みを抱える男を見事に演じ、俳優としてのたしかな資質を見せている。そして、3人の子を持つ母親役で落ち着いた演技を見せる遠藤久美子、自殺志願者役のため絶食をして撮影に臨んだきたろう、かつて山口が手がけたドラマに出演し山口の劇映画初監督を後押しした烏丸せつこら、実力派俳優が顔を揃えている。
撮影は是枝裕和監督作品の撮影で知られ、山口とはドキュメンタリーやドラマで組んだ経験を持つ山崎裕が担当。ドキュメンタリーの経験も豊富な山崎ならではの映像は、この作品の大きな特徴のひとつだといえるだろう。
劇映画でありながらドキュメンタリー的な映像を用いるなど、独特のタッチで描かれる『樹海のふたり』は、登場人物たちの人生に寄り添うような感覚を観客にもたらしていく。2時間を越える上映時間の長さを感じさせない快作だ。

竹内(板倉俊之)と阿部(堤下敦)は、同じテレビ番組制作会社に所属するディレクター。ただし、会社に所属しているとはいえ出来高制のフリーディレクターの身。ふたりが本来やりたいドキュメンタリーの仕事は少なくなり、クイズやグルメ番組を担当したものの評判は芳しくなく、ふたりとも社内の落ちこぼれとなり収入も減っていた。
そんな状況の中で、竹内は富士の樹海で自殺志願者たちに迫るドキュメンタリーを作ろうと考えていた。意欲を見せる竹内の企画に阿部も乗り、ふたりは富士樹海への取材に向かう。
朝から樹海の取材を続け、夜が近くにある格安の宿泊所に寝泊まりする日々が続く。宿泊所の受付の女性・小森茂子(烏丸せつこ)と毎日やりとりを重ねるうちに、阿部はいつしか彼女のことが気になりはじめていた……。
1ヶ月にわたる取材で、竹内と阿部は自殺志願者へのインタビューや自殺を思いとどまらせる場面を撮影していた。さらに、樹海の中で道に迷って自殺志願者の八木(きたろう)に助けられるという体験も。やがて完成した番組は高視聴率を獲得する。
番組の成功で会社からの評価も一転する竹内と阿部。しかしふたりはそれぞれに家庭の事情を抱えていた。アスペルガー症候群の長男を持ち、妻の純子(遠藤久美子)の苦労を案ずる竹内。母の死後、印刷工場を営んでいた父・勇(中村敦夫)が認知症となり介護が必要となっている阿部。
それでもふたりは、次の番組を作るため再び樹海の取材へと向かう。あの宿泊所に泊まり込み、樹海で自殺志願者を待ち、樹海に踏み入る毎日。そんな取材の日々の中で、次第に竹内と阿部の気持ちのズレがあらわになっていく……。