
3年も実家に戻らない娘に会うため、男は九州の田舎町から大阪へと旅に出た。同じフェリーに乗り合わせた金髪の女に案内され、男は大阪の街でさまざまな人々と出会う。そして久々の娘との再会――。
大阪の街を舞台に“父と娘”の絆を題材としたロードムービー『ソウル・フラワー・トレイン』は、アニメ化され大きな話題となった「マインド・ゲーム」などで知られるマンガ家・ロビン西が1995年に発表した同名中編の映画化作品だ。
監督は大阪インディーズ映画界で活躍する西尾孔志。自らロビン西を訪ねて映画化を実現、黒沢清、高橋洋、中原昌也らから絶賛を浴びた2003年の自主制作作品『ナショナルアンセム』以来10年ぶりとなる長編作品のメガホンをとった。
主演には豊富なキャリアを持つ名優・平田満が起用され、田舎から出てきた男・天本の朴訥さや娘を想う気持ちを巧みに表現している。そして旅の途中で天本と知り合う女性・あかねには『デッド寿司』『冴え冴えてなほ滑稽な月』などの真凛(まりん)、天本の娘・ユキには『ランウェイ☆ビート』『ツナグ』などの咲世子(さよこ)と、期待の若手女優が共演している。
また、主題歌を少年ナイフが担当するのをはじめ、DODDODO、バンド・赤犬のクスミヒデオら、音楽には関西を拠点に活躍するミュージシャンが参加。少年ナイフがさりげなく映画本編に登場しているのも注目だ。
映画化にあたり、原作には登場しないキャラクターが加わるなど、ロビン西の監修のもと原作からアレンジされたストーリーが繰り広げられる。ロビン西と西尾孔志、ともに大阪出身のふたりの才能の出会いが、ハートフルでどこか懐かしさも漂う傑作を生み出した。

九州は大分の田舎町に暮らす天本(平田満)は、娘に会いにいくため大阪へと向かった。バレエの勉強のために家を出た娘とは、もう3年も顔をあわせていない。都会暮らしで娘は変わってしまってるのではないか? 大阪に向かうフェリーに揺られながら、ひそかに不安を募らせる天本であった。
大阪に着いて天本がフェリーから降りると、同じフェリーに乗り合わせていた派手な金髪の若い女性・あかね(真凛)が声をかけてきた。なんとあかねは、天本がフェリーの中ですられた財布を取り戻してくれていたのだ。さらにあかねは、天本の目的地が自分と同じ天王寺だと知って道案内を買って出る。
あかねの助けもあって無事に天王寺へとやって来た天本だが、娘に連絡を取ると夜まで留守にしているという。娘が家に戻るまで、天本はあかねの案内で大阪の街を観光することにした。串カツ屋での食事や、ゲームセンターのスマートボールなどなど、まるで昭和から時間が止まっているような街と人情味あふれる人々との触れあいを天本は楽しむ。そして登った通天閣。あかねは地上を見下ろしながら、路面電車にまつわる想い出を天本に話して聞かせる――。
やがて日は暮れ、天本は娘のユキ(咲世子)と久々の再会を果たした。親子水入らずの時間を邪魔しては悪いと、あかねは天本親子の誘いを断り去っていく。
天本とユキが親子の和やかな時間を過ごしているころ、あかねも久々の再会を前にしていた。あかねが故郷であるこの街に戻ってきた理由とは? 大阪の街で、ふたつの“親子の物語”が交錯しようとしていた――。