四国・祖谷。人里離れた山奥でひっそりと暮らす男は、深く雪が降り積もった山中で1台の車が渓谷に落ちているのを見つける。車に乗っていた男女はすでに息がなかったが、まだ歩くこともできない赤ん坊が、雪の上でしっかりとその生命を示していた――。
それから17年が過ぎた。18歳の少女・春菜(武田梨奈)は、山奥の小さな家でお爺(田中泯)とふたりで暮らしている。毎日、山のふもとまで降りて学校に通い、学校が終われば山でお爺の農作業を手伝う。そんな生活を春菜は続けている。
自然に恵まれたのどかな土地に見える祖谷の里であったが、トンネル工事を巡って地元の推進派と、アメリカ人のマイケル(クリストファー・ペレグリニ)をリーダーとする自然保護団体が対立するなど、決して穏やかとはいえない。春菜や、春菜の学校の同級生で旅館の娘の琴美(石丸佐知)たちも、その村の空気と無縁ではいられない。
そんなある夜、春菜とお爺が暮らす家の近くに、ひとりの青年・工藤(大西信満)が現れた。都会から祖谷にやってきた工藤はマイケルたちと生活していたが、どこかその生活に違和感を感じ、山奥へと分け入ってきたのだ。春菜とお爺の生活に触れた工藤は、自分も同じように山で畑を耕して生活しようと決意する。
やがて季節が移り秋となったころ、春菜とお爺の生活に変化が生じていた。お爺の体の調子が悪くなってきたのだ。お爺の身を案じる春菜はずっとお爺のそばにいたいと願うのだが――。
進路に悩む春菜。自然の中で暮らす厳しさを知る工藤。それぞれの生活が、村が変化していく。その中で春菜たちは――。
祖谷物語-おくのひと-
監督:蔦哲一朗
出演:武田梨奈 田中泯 大西信満 河瀨直美 ほか
2014年2月15日(土)より新宿K's cinema ほか全国順次公開
2013年/カラー/35mm/シネマスコープ/ドルビーSR/169分
山奥でお爺とともにひっそりと暮らす少女・春菜。村の人々や学校の友人、都会から来た青年たちと日々を過ごしながら、ずっと山で暮らすことを願う春菜だったが、村も、彼女の生活も、次第に変化を余儀なくされていく……。
徳島県の祖谷(いや)は四国のほぼ中央に位置し、山と渓谷に囲まれた現代も残る日本の秘境である。『祖谷物語-おくのひと-』は、この祖谷で生きる少女を主人公に、自然と人間との関係を描いていく作品だ。
監督は1984年生まれの新鋭・蔦哲一朗。映画の舞台である徳島県出身の蔦は「自然の中で映画を撮りたい」という想いから祖谷での映画制作を決意。大学時代に結成したサークルを母体とする“ニコニコフィルム”の自主制作でありながら、地元の協力も得て、長期間にわたるロケ撮影を実現させた。また、35mmフィルムでの撮影にこだわっているのも注目点だ。
主人公の春菜を演じるのは武田梨奈。『ハイキック・ガール!』『デッド寿司』などの主演で新世代アクション女優として期待される彼女が本作ではアクションを封印、自らの進む道に悩む少女の心理を丹念な演技で表現してみせた。そして春菜と暮らすお爺には『たそがれ清兵衛』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞して俳優としても注目される舞踏家の田中泯。都会から来た青年・工藤には『キャタピラー』『さよなら渓谷』など話題作に出演する大西信満。さらに『萌の朱雀』などの監督・河瀨直美が出演しているほか、若き映画監督でもある森岡龍や地元・徳島出身の石丸佐知ら、充実のキャストが揃った。
フィルムに焼き付けられた四季折々の祖谷の風景と、その中で繰り広げられていく人間ドラマ。“自然と人間の共存”とはなんなのだろうか? それを問いかけていくような、作り手の情熱に満ちた作品だ。
- 春菜:武田梨奈
- お爺:田中泯
- 工藤:大西信満
- 雨宮先生:河瀨直美
- アキラ:村上仁史
- 琴美:石丸佐知
- マイケル:クリストファー・ペレグリニ
- 田村:山本圭祐
- 修二:森岡龍
- 監督・編集:蔦哲一朗
- 脚本:蔦哲一朗/上田真之/河村匡哉
- 撮影:青木穣
- 録音:上條慎太郎
- 照明:中西克之/稲葉俊充/向井一陽
- 監督補:竹野智彦
- 助監督:福嶋賢治/辻秋之/廣田恒平/吉岡洋輔
- 撮影助手:渡邉拓海/知久紘子
- 録音助手:福田充弘/三輪良介
- 衣裳:田中美紗紀/渡邊彩香
- ヘアメイク:桑本勝彦
- スチール:内堀義之
- 制作応援:小沼広達/三浦佑太/松本隼/名倉真由美
- 音楽:川端啓太
- 企画・制作・配給・宣伝:一般社団法人 ニコニコフィルム
- 製作:映画「祖谷物語」製作実行委員会