新進作曲家として活躍する深瀬和実の元に届けられた恩師・橘の死の知らせ。葬儀に参列するため故郷の湘南を目指す和実の胸の中に、音楽大学を目指していた高校時代の記憶が蘇る…。
夏の湘南を舞台に、夢を目指して奮闘する若者の姿を描いた『君はまだ、無名だった。』。自らの人生と葛藤する主人公・深瀬和実を、高校生時代から現在までを通して繊細に演じたのは、テレビ・舞台と幅広く活躍する椿隆之さん。
映画の公開を前に、椿さんにお話をうかがいました。
椿隆之さんプロフィール
1982年生まれ。2001年『GO』(行定勲監督)で映画デビュー。2004年から2005年にかけて放送されたテレビシリーズ「仮面ライダー剣(ブレイド)」、その劇場版『仮面ライダー剣(ブレイド) MISSING ACE』(2004年/石田秀範監督)で主人公・剣崎一真を演じて注目を集める。以降、舞台やバラエティ番組へも活動の幅を広げる。現在、東京MXテレビで放送中のドラマ「探偵ブギ」に松井駿役でレギュラー出演中。
公式サイト:http://www.stardust.co.jp/file/profile/tsubaki.html
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始まる前はちょっとプレッシャーだなと思っていたんです
―― 『君はまだ、無名だった。』の脚本を読まれたときはどんな印象を受けられましたか?
椿:とりあえず、楽器が出てくるのでピアノとか弾かなきゃいけないし「どうしよう」っていうのがあって、すごく不安でした。
―― 椿さん自身は音楽の経験は?
椿:まったくないです。でも、ピアノはもともと実家で妹が弾いていたので多少いじったことがあって、ギターに関しても友達が持っていたのでいじったりしていたので、多少馴染みはあったんです。
―― では、今回の撮影のために練習をされたんですか?
椿:ピアノとギターの練習をしました。やっぱり、ピアノも片手で弾く分にはなんとなく弾けるんですけど、両手は無理だろうって最初は思っていたんです。だけど、ピアノを教えてくださる先生がすごい丁寧で、なんとかある程度弾けるようになって、そのうちにどんどんもっといろいろな曲が弾きたいなあと思うようになっていきました。
―― 撮影中に監督からピアノやギターの弾き方について指導されたりはありましたか?
椿:正直な話、実際の監督は音楽少年というよりは8ミリ少年だったみたいなんで(笑)。その辺はピアノの先生と、もうひとり曲を作ってくださっている方から「ここはこうした方がいいんじゃない」というようなことはありました。
―― 舞台が監督の故郷の湘南で、監督も思い入れがある作品なのではと思いますが、それについて監督と話し合われたりしましたか?
椿:やっぱり、監督の青春が関わっているようなお話だと聞いたので、始まる前まではちょっとプレッシャーだなと思っていたんです。だけど、実際に深瀬和実として演じるにあたっては、気楽というか、あまりプレッシャーを感じずにできたと思います。
―― 撮影期間はどのくらいだったんですか?
椿:1ヶ月くらいです。
―― 高校時代から現在まで、長い期間にわたる物語ですが、撮影は順番どおりにできたのでしょうか?
椿:いや、全然、順撮りではなかったですね。でも、台本の上ですごくメリハリがあったので、すごくやりやすく演じられましたね。
―― 現在の和実は椿さんよりも年齢が上の設定ですが、その年齢を演じる上で気をつけられたことはありますか?
椿:たとえば、自分の中で「4年前はどんな感じだったろう」って考えたら、たぶん今とあんまり変わらないですよね。そういうことを考えたら、あんまり年齢設定を気にすることはないんじゃないのかなと思いました。あとは、やっぱり現在の和実は挫折も味わったりして高校生時代ほどの無邪気さは当然なくなってしまっているということが頭にあったので、そこは意識してやっていきましたね。
―― 撮影中に気持ちの表現などで監督から言われたことはありましたか?
椿:ご飯を美味しそうに食べるシーンがあったんですけど、そこで唯一注意されたくらいだと思います。撮影に入る前に、高校の仲間の4人(椿さん、阪田瑞穂さん、関川太郎さん、佐藤タケシさん)でリハーサルしていたんです。それがあった上で本番に入ったので、本番では監督からはほとんど注意はなくて、温かく見守ってくれていました。
―― そのリハーサルでチームワークみたいなものはできていたんですね。
椿:そうですね、出演者の中ではこの4人が会った回数も一番多いですし。
―― 海で遊ぶシーンはその楽しい雰囲気が伝わってきますね。
椿:でも、あそこは映画に出てくるよりもっと長いっすよ(笑)。やたらと(カメラを)回していたので、だいぶ体力は失われましたね(笑)。
みんな気付いていないことを思い出してくれたらいい
―― 橘先生という登場人物が和実に大きな影響を与えていますが、橘先生役の萩原流行さんと共演されていかがでしたか?
椿:最初、橘先生という役になっていない萩原さんを見たときは、歳も離れていますし、ぼくも失礼があってはいけないと思いましたし、近寄れないオーラがあったんですよ。それが、流行さんが役に入った瞬間に自然と近寄りやすい存在になれたんですよ。それはすごいなあって思いました。実際に役の上で会話を交わすにしても、すごく心に伝わってきて、自分自身が言われているような気持ちになりましたね。
―― 乃里子という年上の女性と和実の関係はどう思われました?
椿:ぼくの人生でも年上の女性に憧れた時期があったので、全然ない話ではないなあと思いました。やっぱり、和実自身に無邪気さがすごくあって、そこでしっかりしている大人の女性に憧れるというのは、男の子だし、あるかなあって(笑)。
―― 乃里子役の宮澤美保さんと、和実と乃里子の関係を演じる上で気をつかわれた点はありますか?
椿:和実は和実で、宮澤さんも乃里子としてなので、役と役として普通に話をして、普通にやった感じですね。キスシーンについては、ぼくはキスシーンが初めてだったので「ぼく初めてなんで、いろいろ至らぬ点はありますがヨロシクお願いします」みたいな話はしました(笑)。
―― ほかの出演者の方とも、自然にその関係を演じられたという感じでしょうか?
椿:そうですね、自然にやれたと思います。
―― 和実という役が、椿さんが以前に演じられた役と共通しているところとか、違うところというのは感じますか?
椿:あんまり似ているところはないんじゃないんですかね。まったく同じ環境で生きているわけではないんで、人間はひとりひとり違うと思うし、人それぞれが思うことですから。
―― 椿さん自身が和実に自分を重ねた部分はありましたか?
椿:和実とぼくとはまったく違うんですけど、岩場で叫ぶシーンがあって、そういうのをやるのってぼく好きなんですよ(笑)。個人的にはやりたいんですけど、日常でやったら問題ありになってしまうので、こういう青春映画でこそ、ああいうシーンができたので、すごく嬉しかったですね(笑)。
―― この映画は夢が叶ってもそれだけでOKではないというところがありますが、それはどうお感じになりましたか?
椿:それは誰しもが味わっていることであって、日常その辺にあるようなことなんだけど、みんな気付いていないことだったりすると思うんです。そういう面で、この映画で「こういうことがあって、こういう恩師がいたんだ」って、それをこの作品を通じて思い出してくれたらいいなあと思いますね。
―― なろほど。では「この作品のこういう部分を観て欲しい」というところは?
椿:「恩師のありがたさ」と、それから「挫折しても這い上がれるんだよ」ということですね。
―― 椿さんは映画の橘先生のように恩師というか、人生で影響を受けたり、感謝している方はいらっしゃいますか?
椿:親ですかね。やっぱり、親元を離れて、いつ実家に帰っても親は親のままでいてくれるってことが何よりも良いことであり、幸せなことなのかなって思うんです。家に帰って環境が変わっていたら、ぼくは「エッ?」ってなっちゃうんで(笑)。
―― では最後に、どういう方々にこの作品を観ていただきたいですか?
椿:仕事帰りに疲れた方々に観てもらいたいですね。仕事で「ああ、疲れた」って思っているときに、この映画を観て「こんな頃もあったよなあ」とか、映画に映っている湘南の海や風景とかとてもきれいなんで、そういう面で癒される映画ではないのかなって思います。
(2006年3月14日/バイオタイドにて収録)
椿さんが演じる深瀬和実の姿には、きっと誰もが共感を抱くことでしょう。『君はまだ、無名だった。』は4月1日より池袋シネマ・ロサにてレイトショー公開。椿さんの言葉にあったように、仕事帰りに立ち寄るのには絶好の時間です。ぜひ、劇場の大きなスクリーンで和実たちの姿をご覧ください。
君はまだ、無名だった。
4月1日(土)より、池袋シネマ・ロサにてレイトショー
原案・監督:葉山陽一郎
出演:椿隆之、阪田瑞穂、原日出子、萩原流行 ほか
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