高校の野球部で補欠だった難馬邦秋は、27歳になった今もバイトの傍ら「究極のスイング」を目指して素振りを続ける。ある日、難馬は巨乳で酔っ払いのエイコと出会い、いつの間にかふたりは「バット強盗」として追われることになってしまう。そして難馬と同じ野球部でエースだった西岡が、警官としてふたりの前に現われる…。
古泉智浩さんのマンガを原作に、どこかにいそうな青年の青春を、『鬼畜大宴会』などの熊切和嘉監督が激しくも優しく描く『青春☆金属バット』。主人公の難馬を演じるのは、バンド野狐禅(やこぜん)で活躍し、本作が映画初出演となる竹原ピストルさん。映画初挑戦とは思えない存在感を見せている竹原さんにお話をうかがいました。
竹原ピストルさんプロフィール
1976年生まれ。大学時代はボクシングで全国大会に出場。大学卒業後の1999年、大学の同級生だった濱埜宏哉さんと野狐禅(やこぜん)を結成、新世代フォーク・ロック・バンドとして注目を集め、2003年にメジャーデビューを果たす。映画初主演となった『青春☆金属バット』に続き、2007年公開の熊切和嘉監督作品『フリージア』にも出演。初の詩集「片岡は夏のにおい〜中学2年の夏休み〜」(幻冬舎)が2006年9月1日に出版となる。
野狐禅公式サイト:http://www.yakozen.net/
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「やりやすいとかやりにくいの判断もつかなかった」
―― 『青春☆金属バット』の主演は、熊切和嘉監督から直接、竹原さんに依頼があったそうですね。
竹原:ちょうど野狐禅のツアーで九州を廻っているときで、夜、ホテルの部屋にいたら監督から電話がかかってきて「『青春☆金属バット』っていう映画で主役にピストルを推しているんだけど、興味ある?」って言われたんです。監督の喋り方からしてずいぶん酔っ払ってる感じだったんですけど(笑)、興味はあったから「興味はありますけどちょっと待ってください」って答えて、後日、受けさせていただいたんです。
―― 以前に野狐禅のプロモーションビデオで熊切監督とお仕事されていますが、そのときから意気投合されていたんでしょうか?
竹原:正直、プロモーションビデオの撮影のときはそんなに話はしていないんですよね。「じゃ、次に野狐禅ふたり、歌ってるところ撮るから」みたいなやりとりしかなかったんです。だからその電話は、ほんとタイミング的にも唐突だったし、映画への誘いという内容も唐突だったから、しばしボーっとしてしまうくらい衝撃的なことだったですね。
―― 原作のマンガはご存知でしたか?
竹原:ぼく自身は知らなかったんですけど、友達が古泉先生の作品が好きなので貸してもらって読みました。絵が好きだなあと思ったのと、難馬くんは「俺はこういう奴好きだなあ」って思う青年でしたね。言いたいこともうまく言えなくて、どこかスッポ抜けている一直線バカで、実際にいたら、ぼくは絶対ちょっかい出しているだろうなって(笑)。そのあと、正式に台本をいただいて決定になったんですけど、台本は良い悪いではなくて原作とは違って、優しい話だなあって思いました。
―― 台本を読んで、この役はやりやすそうだと思いましたか? それとも、難しそうだと思いましたか?
竹原:ほんとに初めてだったので、やりやすいとかやりにくいの判断もつかなかったですね。だから、自分で考えてみるという大それたことはしないようにして、撮影の前に監督とふたりで練習したんですよ。最初は監督の家で台本を読むのをやったんですけど、いかんせん難馬くんはセリフが少ないので、ずっと監督が台本を朗読してるみたいになって「俺言えないじゃん!」みたいな(笑)。それから公園に行って練習したり、バッティングセンターに行ったり、回数にしたら2回とか3回ですけど、不安なところを電話で相談したりっていう期間はひと月半くらいありましたね。それをそのまま本番でやったという感じです。
―― 難馬は高校野球で夢を果たせなかった人物ですけど、竹原さんも学生時代にボクシングをやられていて、スポーツという面で共感する部分はありましたか?
竹原:スポーツへの情熱とか挫折とかっていう部分で言ったら、自分は安藤(政信)さんがやった西岡くんにすごい近いところがありますね。いわゆる青春時代があって、挫折して、その青春時代を忘れようとして、ごまかしながら囚われているっていう部分は非常に西岡くんと通ずるところがあるんです。でも、難馬くんはいい歳こいて、まだ「究極のスイングだ」とかやっているし、たぶん未練とか、挫折だとか、情熱だとか、そういう概念ごとないような男だと思うんですよね(笑)。そういう部分では難馬くんに共通点を見つけることはできなかったです。
―― 難馬の内面の演じ方について、監督とはかなり相談されたんでしょうか?
竹原:撮影に入る前には、ここまで理屈で考えることはできていなくて、どういう心境でとかまでは考えていなかったですね。ほんとに表面的に「ここではこういうことがあったから、きっと哀しいですよね?」みたいな、ザックリとしたことで行ってました(笑)。
「終始いっぱいいっぱいでしたけど、すごい充実感がありました」
―― 西岡役の安藤政信さんや、エイコ役の坂井真紀さんが共演に決まったのはいつごろだったんでしょう?
竹原:自分が難馬くんに決まって、1週間とか2週間とか、結構経ってからだったんですよね。「もう話を受けたからにはビビってないで頑張るぞ」と腹をくくってたんですけど、坂井真紀さんだ、安藤政信さんだと名前が挙がってくると、再び恐怖感とか不安みたいなものがこみ上げてきましたね(笑)。すごくビビッたけど「これは映画だもんなあ」と妙に納得したりとか(笑)。
―― 撮影がおこなわれた時期は?
竹原:去年の2月に、2週間強ですね。
―― 初めて映画の現場に入られた感想はいかがでした?
竹原:撮影が始まる前日まではほんとにノイローゼ気味だったんですよ(笑)。不安で不安で、夜中にフラッと起きてバットを持って神社に行って素振りして帰ってくるみたいなことをやっていたんです。でも、始まったらもうブーブー言っててもしょうがないなあと思って、スイッチは入りました。「もう引けねえぞ」って、割と落ち着いていましたね。
―― プロモーションビデオと映画で、撮影現場に違いは感じましたか?
竹原:やっぱり、プロモーションビデオの撮影では、歌い方とか演奏の仕方とかは完全に自分たち持ちじゃないですか。自分の曲を自分でやるので、いつもやっている通りにやればいいんですけど、映画となればやっぱり監督が描いているイメージで良し悪しが決まるんですよね。そのイメージに近づけるような技術はぼくにはなかったですけど、そういう部分で違いはありますよね。
―― 熊切監督はビデオのときと映画のときでは雰囲気は違っていましたか?
竹原:監督は同じだったです(笑)。初対面のからずっと印象変わっていないんですけど、すごく気さくで、いつもニコニコしているような雰囲気ですね。
―― 共演者の方たちと初めて共演したときの感想は?
竹原:やっぱり、ずっとその道でやって来た人が醸し出す雰囲気たるや、カッコ良いなあっていう印象でしたね。それが目の前で見られて、下手すると触ったりしているわけだから、これはすごいことだなあって思いました。
―― 坂井真紀さんとはかなりきわどいラブシーンもありますが?
竹原:ほかのシーンとあんまり変わらなかったですね。坂井さんに限らず、女性と至近距離で触れ合えばドキドキもしますけど、これは難馬くんとエイコさんの話だし、男と女が裸で至近距離でくっついているからラブシーンかも知れないですけど、実質的にはラブシーンじゃないという風に認識していたから、ほかのシーンと同じように、緊張してやりました(笑)。
―― 撮影期間の2週間というのは、どんな2週間でした?
竹原:ほんっと楽しかったですね。終始いっぱいいっぱいでしたけど、すごい充実感がありました。とにかく監督とかスタッフの方とか共演者の方に早く会いたくて、なんか中学生みたいな気持ちだったです。夜遅くまでやっていても「早く明日にならないかなあ」って思ってたんです。
―― 完成された作品をご覧になって、難馬として映っているご自分を見たときの感想は?
竹原:完成してすぐの頃に監督の家でビデオで見せていただいたんですけど、自分がどう映っているかということより「このシーンは周りでこんなことがあったな」とか、アルバムを見てるみたいに撮影現場の状況が思い出されて、自分が難馬くんとして画面の中にいることは、割と違和感なく見ていたような気がしますね。
「無我夢中になれるものを全部やれたらいい」
―― 来年公開の熊切監督の『フリージア』にもご出演されているんですよね。
竹原:また「ちょっとした役を頼みたいんだけど」っていうメールが来て、「自分にできることがあればやらせてください」ってことで受けさせていただいたんです。監督がぼくがやるのを前提に台本を書いてくださったみたいで、難馬くん以上に素の自分に近い役だったんです。ほんとに素のそのままでいけたんで、そのまま現場に行って、そのまま撃たれて死んで帰ってきました(笑)。
―― 熊切監督のほかにも『青春☆金属バット』を観て竹原さんに注目する監督がいるのではないかと思います。
竹原:そうなったら嬉しいですね。もっといろいろなことをやってやろうと思っていたんです。音楽はまぎれなく無我夢中にやっていけるものだし、映画も初めてやらせてもらったらそういうものでしたし。無我夢中になれるものを全部やれたらいいんじゃないかと思っているんです。
―― 同じ事務所の山崎まさよしさんも音楽と演技と両方をやられていますが、山崎さんとお芝居について話したことは?
竹原:あんまりないんですよ、あの人は真面目な話をしない人なんで(笑)。特にお酒が入っちゃうとダメですね(笑)。
―― 最後に、映画をご覧になる方にどんな部分を観ていただきたいかをお願いします。
竹原:人それぞれ、10人いたら十通りの「青春」っていう概念があるじゃないですか。それは「未練」かもしれないけど。この映画は、それがどんなにカッコ良いものであっても、どんなダメダメなものであっても、それをささやかにではあるけれど肯定してくれるような、優しい映画だと思うんですよね。だから、映画を観終わったあとに自分に「まあ、良くやったじゃないか」みたいに言ってあげたくなる気持ちになったくれたらいいなあと思います。
(2006年6月16日/オフィス・オーガスタにて収録)
『青春☆金属バット』での無口な役柄とは違って、にこやかにインタビューに応じてくださった竹原さん。難馬役で見せた表情だけではなく、もっともっとたくさんの顔を持っているのではないかと感じさせられました。これから日本映画界で気になる存在になっていくこと間違いなしの竹原さんの姿をぜひスクリーンでご覧ください。
青春☆金属バット
2006年8月26日(土)より渋谷シネ・アミューズ、池袋HUMAXシネマズ4にてロードショー ほか全国順次公開
監督:熊切和嘉 原作:古泉智浩
出演:竹原ピストル、安藤政信、坂井真紀 ほか
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