夭折の作家・佐藤泰志さん唯一の長編小説を綾野剛さんを主演に迎えて映画化した『そこのみにて光輝く』が４月19日に初日を迎え、テアトル新宿で綾野さんはじめ出演者と呉美保（お・みぽ）監督が舞台あいさつをおこないました。
　『そこのみにて光輝く』は、ある事件で心に傷を追った男・達夫が主人公。偶然に達夫と知り合う青年・拓児、その姉の千夏や拓児の家族たち、それぞれの重荷を背負って生きる人々の物語が、原作者・佐藤泰志さんの故郷である函館を舞台に描かれていきます。
　上映終了後舞台に登場した綾野さんは、ほかの作品の撮影のためにこの作品で演じた達夫とはガラリと変わった金髪姿。「こういった作品なのに、こんなはしゃいでる感じに見えますけれど、観終わったみなさんがドンヨリしているのが容易に想像ついたので、多少なりとも気持ちよく帰っていただきたいと思いましてこんな感じなわけですね(笑)」とあいさつ。映画の中ではパンチパーマ姿の高橋和也さんについて「高橋さんがパンチじゃないことにぼくはとても違和感を感じております(笑)」と話し、客席の笑いを誘いました。
　撮影がおこなわれたのは昨年の６月から７月にかけて。千夏を演じた池脇千鶴さんが、海の中で千鶴と達夫が抱きあうシーンを「すごく寒くて」と振り返ると、呉監督は「（撮影は）楽しかったあ」と一言。池脇さんは「こっちは死ぬかと思ったけど(笑)」。綾野さんも「ほんとにきつかったですからね。ほんとにギリギリで、生命の（危険が）……」と苦笑いを見せつつ、呉監督を「まあこういう人なんでね、見た目とは裏腹にこういう作品を撮るというのが魅力ですけどね」と評しました。
　また『そこのみにて光輝く』は、８月から９月にかけてカナダで開催されるモントリオール世界映画祭に正式出品されることが決定しており、綾野さんは「コンペというかたちで参加できるだけでも充分な評価だと思っています。（原作者の）佐藤泰志さんと一緒にモントリオールの風を感じてみたいと思います」と映画祭に向けた想いを語りました。

　今回の舞台あいさつは、特別な趣向としてイギリス・ロイヤルオペラハウスのコンサートマスターで映画のメインテーマでヴァイオリンを演奏しているヴァイオリニストのヴァスコ・ヴァッシレフさんがメインテーマを生演奏。美しい旋律が流れる中、出演者と監督が入場しました。
　ヴァッシレフさんは通訳を通じて「この美しい映画に関わることができてとてもとても光栄に思っています。モントリオールの次に（アカデミー賞授賞式がおこなわれる）ロサンゼルスでオスカーのためにお会いできることを祈っています」とあいさつ。綾野さんは「音が見えるってこういうことなんですね。ほんとに素晴らしい音楽で、しかもわざわざいらっしゃってくれて恐縮しきりで、ほんとにありがとうございました」と感謝の言葉を述べました。

　舞台あいさつの最後に、綾野さんは「なにか伝えたい、なにか感じてほしいということは、正直ぼくはなくて、ただ、自分を愛せない人、自分を優しくできない人を抱きしめられる世の中になってほしいなというのはこの作品で感じています。この作品を通して、みなさんの中で、とても小さな幸せがひとつ灯ってくれたら幸いです」と観客へのメッセージを送り、呉監督は「すごく自由で楽しく、だけどひとつの方向をジッと見て、みんなで作った作品です。私は愛を描きたいなと思いました。決してきれいな愛とかではなくて、映画の中ではみんな不器用なんですけど、でも、観てくれた方たちそれぞれの“愛のかたち”みたいなものを、なんかちょっと見つけてもらえたらなと思っています」と舞台あいさつを締めくくりました。

『そこのみにて光輝く』は４月12日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、ほか全国ロードショーされています。