会見に出席した柴口勲監督、正司怜美(しょうじ・れいみ)さん、竹内義晶さん、福田麗(ふくだ・れい)さん(左より)
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40名の中高生たちがスタッフ・キャストとして作り上げたミュージカル映画『隣人のゆくえ―あの夏の歌声―』(8月12日公開)の東京公開を前に、下関から上京したスタッフ・キャストの高校生たちと柴口勲監督が6月3日に都内で会見をおこないました。
『隣人のゆくえ―あの夏の歌声―』は、山口県下関市の歴史ある学校・梅光学院中学校・高等学校の生徒40名が主体となり、同市在住の柴口監督の指導のもとで制作した作品。
映画制作に先立って学内より希望者を募り約1ヶ月間のワークショップをおこない、柴口監督がワークショップで40名ひとりひとりを把握した上で特性を活かして脚本作りに入るというスタイルで制作されました。
もともと音楽制作希望でワークショップに参加し演技経験ゼロながら柴口監督の「(曲を作るときの)感性がすごかったので、そこに賭けてみようと」という判断で主人公・野村カンナ役に抜擢された正司怜美さんは主演に加え劇中曲の作曲も担当、ミュージカル部部長・田中絹代役で撮影時には実際にミュージカル部の部長だった福田麗さんが劇中のダンスの振り付けを手がけ、助監督希望でワークショップに参加し監督からも「周りをよく見るのが助監督に向いている」と助監督を任された竹内義晶さんも劇中曲の作曲をしているなど、参加した40名がときにはスタッフとキャストを兼任しながら作品を作り上げています。
映画は、高校1年生のカンナが夏休みの学校でミュージカル部の練習を見学する中で70年前の戦争の記憶に触れていくというストーリーで、ファンタジーやミステリー、ホラーなどの要素もあり、正司さんは「この映画は“これはなに映画?”って聞いたら、いろんな答えが出てくるくらいジャンルが決まっていないので」、竹内さんは「(完成した映画を観たら)全然観たことのない映画で、映画の振り幅って大きいんだなって改めて思いました」と表現するほどの不思議な作品。同時に歌とダンスで物語が綴られる本格的ミュージカル映画でもあり、福田さんは「ミュージカル映画が好きな人はおすすめの映画です」と作品をアピールしました。
下関でサラリーマンとして働きつつ自主映画を制作してきた柴口監督は、母校の中学校から講演を依頼された際に生徒と一緒に映画作りをしたのがきっかけで中学生との映画作りを始め、母校で3本の作品を制作したのち梅光学院で『隣人のゆくえ―あの夏の歌声―』を制作。
柴口監督は「(撮影の際)ぼくが撮るとそれなりにきれいに撮れるんですけど、ぼくの真似をして中学生たちが撮ると、下手くそだけどいい表情がいっぱい撮れているんですよね。そのときに確信したんですけど、ぼくが“よーいスタート!”ってカメラを構えるより、友達がカメラを向けたほうが自然な表情が撮れる。下手くそでもいいから自然な素朴な画をつなげていきたい。カメラだけじゃなくマイクも、友達がそばにいたほうが素が出せる」と、中高生と映画を作る理由を挙げました。
今回の『隣人のゆくえ―あの夏の歌声―』は中学1年生から高校2年生まで学年を越えて生徒が参加したため「学年によっても全然違う予定があるので、けっこうそれを合わせて撮影していくのが大変で、けっこうキツキツのスケジュールでしたね」(竹内さん)、「模試があったりして、撮れなかったシーンは、秋に近づいてて衣替えも終わっているのに夏服で寒い中撮影したりとかもしました(笑)」(福田さん)と、中高生が主体ならではの苦労もあったよう。
さらに柴口監督は「中高生というのは最初はワッとくるけど飽きっぽいです。それをもう1回呼びこむというのは大変な作業ですね。そこはすごく苦労したところではあります(笑)」と、監督の立場から語りました。
また、初めての映画作りという経験は「私はこの(作品の)音楽制作を通して、作曲とかの方面に進みたいとすごく思いました」(正司さん)、「私はこの映画を撮ったとき高校2年生だったんですけど、すごく進路に迷っていて、この映画を通して自分の気持ちを再確認できたので、いまは音大に通ってます」(福田さん)、「自分はゼロから作るということは苦手なんですけど、今回は助監督という立場で、できているものに少し付け足していくというか“1”くらいの状態から作り上げていくということをさせていただいて、自分もいつかゼロから作れるような人になれればと思いました。また映画を作る機会とかワークショップとかありましたら参加したいと思います」(竹内さん)と、参加した中高生たちが将来を考える大きなきっかけにもなったようでした。
これまで地元の下関で上映されたほか、2016年開催の第17回TAMA NEW WAVEなど各地の映画祭で上映されてきた『隣人のゆくえ―あの夏の歌声―』は、いよいよ8月より映画館での長期間の一般上映が始まります。
知人や関係者も多かった地元での上映とは異なる東京での公開を前に、竹内さんは「東京でも梅光学院の同窓会の東京支部の方たちは来てくださるんですけど、東京は人が多いし、首都なので(笑)、田舎の映画が首都に出るのはすごいなと思っていて、自分の中で東京というのはひとつの国だと思っているので、別の国にまで行ってしまったのかなと思っています。やっぱり、誰に一番観てもらいたいかといえば同じ世代の人たちに観てもらって、どういうふうに思うかというのを聞いてみたいと思っています。感じ方というのは知り合いの方や関係者だったりが観るのと、異国の地の人が観るのとでは感じ方が全然違うし、客観視をしてもらえるので、どういうふうに評価をくださるのかというのが楽しみであり、不安でありという感じです」と心境を述べ、福田さんも「逆に知らない方に観ていただいたほうが気持ち的には楽というか(笑)、ぜひ(観てください)と言えます」、正司さんも「戦争をテーマにしているので、同じ世代の人に観て知ってもらいたいというのはあります」と、それぞれコメント。
映画は戦時中に下関市街地を襲った空襲が大きなモチーフとなっており、竹内さんはさらに「今回、この映画を通して、生の(空襲後の)写真、ほんとにすぐそこが焼けている写真だったり、どこかもわからないくらいに全部燃えてしまった写真など、たくさんの写真を見て、ようやく戦争といういうひとつの歴史が事実としてあったという実感が自分の中に芽生えてきて、そこからいろいろ戦争について考えることも多くなりました。中高生の人たちって、学校で習ったからといって戦争のことを資料で調べたりとかすることはあまりないと思っているので、やっぱりそういう同年代の人たちに、戦争とか空襲というひとつの歴史的な事実を考える機会になればいいかなと思っています。語り継いでいかなくてはならない明らかにある事実を忘れずに、自分でそれから調べるきっかけになるような映画にもなってくれればいいなと思っています」と、映画が持つメッセージを強調しました。
中高生たちのみずみずしく真っ直ぐな感性がスクリーンから伝わり、大林宣彦監督も「奇蹟のような映画」と絶賛するメッセージを寄せている『隣人のゆくえ―あの夏の歌声―』は、8月12日(土)より新宿K's cinema、8月19日(土)より横浜ジャック&ベティにて公開されます。