舞台あいさつをおこなった田中雄之プロデューサー、金田哲さん(はんにゃ)、戸次重幸さん、吉沢悠さん、前野朋哉さん、坂下雄一郎監督(左より)。金田さんと前野さんは映画の舞台となる架空の市“えのき市”Tシャツで登壇、田中プロデューサーは『エキストランド』Tシャツをアピール
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“悪徳映画プロデューサー”が巻き起こす騒動をコミカルかつシニカルに描いた『エキストランド』が11月11日に初日を迎え、渋谷ユーロスペースで主演の吉沢悠さんと坂下雄一郎監督、共演の戸次重幸さん、金田哲さん、前野朋哉さんが舞台あいさつをおこないました。
『エキストランド』は、吉沢悠さん演じる映画プロデューサー・駒田が主人公。地方のフィルムコミッション(※映像作品のロケを支援する組織)を騙して自分に都合のいい条件で映画を作ろうとする駒田と、エキストラへのひどい扱いなどに不信感をつのらせていく市民の対立が引き起こす騒ぎが描かれていきます。
東京での上映は満席でのスタートとなり、登壇した吉沢さんは「今日の日を楽しみにしていました。ありがとうございます」、坂下雄一郎監督は「今日を迎えてほんとに嬉しいです」と、それぞれあいさつ。
映画監督の石井を演じた戸次重幸さんは「まずは謝りたい。キャストのこの衣装の統一感のなさね」と、金田哲さんと前野朋哉さんだけが劇中に登場するTシャツで揃えていたことをネタにして客席の笑いを誘いました。
舞台あいさつでは登壇者それぞれの気に入っているシーンが質問され、戸次さんが「(怒ったエキストラが帰って)田んぼでエキストラさんがふたりしか残らない、あの引きの画がたまらなく好きで、そのあとぼくのセリフなんですけど笑わないように必死でしたね」と答えると、前野さんが「あの(撮影の)日、ちょうどお子さん産まれるかどうかという瀬戸際でしたよね」と指摘。戸次さんが「長野で撮影していて、妻から」連絡を受け「これは今日中に帰らんと、ってなったんですけど」と当日を振り返ると、前野さんは「ナイター(※夜の撮影)がワンシーンありまして、しかも(長野から戻る)終電がわりと早くて、NGあんまり出せない状況にまで来まして、現場で誰より戸次さんが“巻いていこう!”って(笑)」と戸次さんが「じわじわと無言のプレッシャーを与えて」(前野さん談)いたことを明かし「あんなに緊張して芝居したことなかったです(笑)」という前野さんに、戸次さんは「ほんとに前野くんに申し訳なかったよね(笑)」と照れたような笑いを。「監督にも申し訳なかったです。落ち着いて撮れなかったでしょ?」という戸次さんの言葉に、坂下監督は「いえいえ」とポーカーフェイスで答えました。
そして、同じ質問に吉沢さんが「ぼくは金田さんのAD具合がどんどんうまくなっていくのがすごい面白くて」と、映画スタッフの一員となる市民・土田を演じた金田さんの“スタッフっぷり”を挙げると、金田さんも「ほんとに(ロケ現場近くの)道を歩いている人たちは、ぼくらの撮影を見て(金田さんと本物のスタッフと)どっちがほんとにクルーなのかがわかってない感じがね」。さらに田中雄之プロデューサーも、撮影の休憩中に本物のエキストラの方が金田さんに「次の現場何分後ですか?」と質問したという裏話を紹介し、金田さん自身も「俺が現場を回してるみたいに本気で思ってて、あれはビックリしましたね(笑)」と話しました。
劇中では映画作りに没頭するスタッフの暴走も描かれており、駒田やスタッフに翻弄される市職員・内川を演じた前野さんは好きなシーンとしてその暴走シーンのひとつを挙げ「あれはお芝居やっていても冷や汗が出ましたね。なんかわかんないんですけど“こいつらマジでやべえ”っていう。シナリオを読んでいたときから楽しみでしたけど、実際にやるとこんなにおっかねえシーンなんだなって。ひとつのこの映画の到達点だなって観ていて思いましたね」と『エキストランド』のひとつのテーマに迫る感想を。
また、舞台あいさつでは無口であまり感情を出さない坂下監督にまつわるさまざまな逸話も紹介され、吉沢さんは「ぼくは一番最初にオファーをいただいたときにちょっと衝撃的だったんですけど、ずっと(監督が)喋らないっていう(笑)。“(役が)どういうキャラクターですか?”って訊くと、こういう(黙っている)感じだったので不安だったんですけど“坂下愛”を(スタッフやほかのキャストの)みんなから感じたので、こういう感じの人柄なんだというのを逆に前野さんたちから教わったみたいなところはありますね」と監督の印象を述べ、坂下監督の大阪芸術大学での先輩で過去の坂下作品にも出演している前野さんは「(監督は)笑うことはほんとにレアなので、笑っていると“大丈夫かな?”ってこっちが心配になる(笑)。よっぽどいいことありすぎておかしくなったのかなって思うくらいなので」と、古くから知っているゆえの視点で監督を語りました。
撮影中の様子を笑顔で振り返る金田哲さん、戸次重幸さん、吉沢悠さん、前野朋哉さん(左より)
金田さんは「よく見るとエキストラの方にもすごい個性的な方がいて、エキストラの方の姿を何度見ても楽しめると思うんですよ。いろんな個性なキャラがいらっしゃるので『ウォーリーをさがせ!』じゃないですけど、そういう感じで観ていただきたいと思います」と映画のタイトルにも含まれている“エキストラ”にちなんだ見どころをアピール。
戸次さんは「みなさんに勘違いしていただきたくないのはですね、我々の業界、映画もドラマもそうですけど、ここまでひどくエキストラさんを扱わない! エキストラさん募集というのは常時いろいろな現場でおこなっていますので、こんな(映画のような)ことはほんとにフィクションですから、そのときにはどうぞご協力いただければなと思いますね」と、エキストラがひどい目に遭う映画の内容をフォローするようなコメントをしましたが、前野さんは「この映画は、全部が全部そうじゃないんですけど、なくはない話だったりするんですね。ごめんなさいね、戸次さんがせっかくいいこと言ってくれたのに(笑)」と、戸次さんのコメントを覆すような内容に恐縮する様子も見せつつ「でも、人が集中してしまうと周りが見えなくなる瞬間ってあるじゃないですか。そのときに見えないところの人を傷つけている可能性はやっぱりあって、映画に限らず普段の生活にも言えることだと思うんですね。そこのところを面白く描いている作品だなと思うので、すごく愛せる作品にぼくは思っています。ぜひ、この愛をみなさんも受け止めてもらえたら、SNSとかで広げていただけたら助かります」と真摯なメッセージを。
そして吉沢さんは「この映画、たぶん主役に感情移入できない映画だと思うんですけど、この(舞台あいさつの)空気感を見ていただけたらわかると思うんですけど、周りのみなさんにほんとに助けていただいた作品だなと思っておりまして、この作品を多くの方に届けたいので、ぜひよろしくお願いします」、坂下監督は「この企画はもう3、4年前から準備していて、けっこう長いことやっていて、実現ができないんじゃないかっていうときも何回かあって、そういうものが上映までこぎつけて、ほんとによかったなと思っています。満員になりましたし、SNSのほうで(感想の拡散を)よろしくお願いします」とそれぞれ語り舞台あいさつを締めくくりました。
『エキストランド』を含め1年で3作品が劇場公開、テレビドラマの演出にも進出と活躍めざましい新鋭・坂下雄一郎監督が、舞台あいさつ登壇者はじめ個性派キャストを迎えて「現代のモノづくり」を長野県・信州上田フィルムコミッションの全面協力を得て描いた『エキストランド』は、11月11日(土)より渋谷ユーロスペース、ロケ地である長野県の上田映劇ほか、全国順次公開されます。