トークショーをおこなった藤井秀剛監督(右)と宮台真司さん
※画像をクリックすると大きく表示します
テレビ局で起きる隠蔽事件を通して現代日本社会を寓話的に描いた社会派スリラー『猿丿王国』が4月2日に新宿K's cinemaで初日を迎え、藤井秀剛監督と社会学者で映画批評家の宮台真司さんがトークショーをおこないました。
『狂覗』『超擬態人間』『半狂乱』と衝撃作を次々と送り出す藤井秀剛監督の新作となる『猿丿王国』は、ワクチンの危険性を伝えるニュース特集の放送当日、テレビ局最上階に集められた5人と地下に監禁された3人が繰り広げる人間模様がやがて復讐劇へと発展する物語であり、責任者不在の日本の“タテ社会”を風刺的に描いた社会派リベンジスリラー。
トークショーは満席となった初回の上映終了後におこなわれ、宮台真司さんは「“藤井秀剛節”炸裂という感じでしたよね」と作品の感想を述べ「いまの映画界に対する批判にもなっているなというふうにも思いました」とコメント。現在の日本映画のシステムでは「セリフの外にある文脈」をコントロールするために脚本と監督をひとりで担当することが大事だと話し、脚本も藤井監督が担当している『猿丿王国』は「それがすごくよくできている」と賛辞を贈りました。
そしてモチーフ・テーマの観点から「日本人の劣等性を徹底的に揶揄しているという意味で、ぼくにとっては応援歌のようでもあり、あるいはぼくの言説はこの映画にとっての応援歌であるようでもある」と評し、作品が宮台さんと「ひじょうにシンクロ率が高いと思いました」と話しました。
また宮台さんは、上映後のトークショーとあってストーリーの深い部分にも触れ、宮台さんが映画批評でよく使う「同じ世界に入る」という表現を用いて、『猿丿王国』は「同じ世界に入ることで愛を確証する」というモチーフが“影のモチーフ”として描かれた「愛の映画でもある」と指摘しました。
トークショーの内容は『猿丿王国』のテーマと関連する日本社会の構造にも発展しました。
宮台さんは「(日本は)周りに適応するだけでうまく生きられる社会」「合わせないでなにかを貫徹することが価値であり規範なんだけど、日本人が一番苦手なこと」だと話し、それゆえに日本社会は「急降下」し「ますます劣化」していると説明。
現状の解決策として社会の劣化を歓迎するという宮台さんに、藤井監督は「いい時代を知らない若い人たちがどうやって立ち上がっていくんだろうと」と疑問を投げかけ、宮台さんは「ぼくは“社会という荒野を仲間と生きろ”と言っているんですが、社会がたとえ荒野であっても自分の生き方は貫徹させるし、愛と絆は絶対に失えない、そういう関係を作っていく。そういう構えが、特に若い人たちには必要となるだろうと思いますね」と述べました。
さらに深く広がりを見せたトークは限られた時間では収まらず、最後に宮台さんは、アメリカでは始まっている「なにが良いメタバースなのか」を巡る論争が日本ではないという技術開発における問題を挙げた上で「映画でもそうなんですよね。基本、観客に合わせた映画なんて、観客がどんどん劣化しているんだから、そんなものを作ってもダメなんです。観客に“お前らの生き方は全部間違っているから俺の映画のように生きろ!”という藤井監督の映画こそが、今後ますます必要とされていると思います」と藤井監督の作品への期待を語り、客席からの大きな拍手の中でトークショーは締めくくられました。
ダブル主演の坂井貴子さん、越智貴広さんをはじめ種村江津子さん、分部和真さん、足立雲平さん、納本歩さん、望月智弥さん、田中大貴さんらが出演し「コロナのある現在」を背景にして日本社会の縮図を高いエンターテイメント性の中で描く『猿丿王国』は、4月2日土曜日より新宿K's cinema にて公開されています。