石巻市出身の映画作家・佐藤そのみ監督がが震災から8年後に故郷で撮った劇映画『春をかさねて』とドキュメンタリー『あなたの瞳に話せたら』の中編2作品が12月7日より東京のシアター・イメージフォーラムを皮切りに全国ロードショーされるのを前に予告編が解禁されました。また、作家のいとうせいこうさんや映画監督の三宅唱さんら著名人が作品に寄せたコメントも公開されました。
震災の“その後の私たち”を描く『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』予告編&推薦コメント解禁
宮城県石巻市出身の佐藤そのみ監督は、中学2年生のときに東日本大震災を経験。その後、日本大学芸術学部で映画を学び、震災から8年後の2019年に自らの故郷・石巻市大川地区で地元住民や大学の友人の協力を得ながら『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』の中編2本を監督しました。
『春をかさねて』は、震災で妹を亡くした14歳の祐未と、その幼馴染で同じく妹を亡くしたれい、ふたりの中学生の少女の心の揺れを繊細に描いた劇映画。
『あなたの瞳に話せたら』は、震災で大きな被害を受けた大川小学校に通っていた当時の子どもたちが、亡くなった友人や家族に宛てた書簡で綴るドキュメンタリー。
それぞれ、フィクションとドキュメンタリーという異なる手法で「その後の私たち」を描いた作品となっています。
2021年より、各地の団体・自治体・学校などの要望に応えるかたちで自主上映として全国30箇所以上で上映されメディアにも取り上げられるなど話題となってきた両作品が、12月7日シアター・イメージフォーラムを皮切りに全国ロードショーされます。
公開を前に解禁された予告編は『春をかさねて』の一場面から始まり『あなたの瞳に話せたら』の映像へと。その後も2作品の映像が続き、それぞれが独立した作品でありつつ、その根底に共通したものが流れていることを感じさせます。
また、現在は入ることのできない大川小学校の校舎内で撮影された貴重なシーンもあり、予告編でもその一部を垣間見ることができます。
そして、作家・クリエイターのいとうせいこうさん、文筆家・映像作家・俳優の小川紗良さんら、各界の著名人が作品に寄せたコメントが公開されました。
『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)『夜明けのすべて』(2024年)などの映画監督・三宅唱さんが「もし、今年公開される映画のうち一本しか10年後に持っていけないとしたら、『春をかさねて』を選びます。」と評するなど、作品や佐藤監督の姿勢に賞賛が寄せられています。
作家・クリエーター:いとうせいこうさんコメント
死者に向かっても生者に対しても、鎮魂でないカットはひとつもない映像だ。再構成であれ、ドキュメンタリーであれ。 あのとき大川小学校の子供たちに何があったかを、何度も語り直すこと、記録すること、伝えること。それがそこで生きる人の日々の営みなのだと頭を垂れる。
立教大学特任教授/美学・表象文化論:今村純子さんコメント
たとえ震災のような大変な経験がなくとも、 人が生きてゆくというそのことだけでも大変で、 そのなかで自分の感受性を正確につかむことは難しく、 その感受性が表現に結実していることに驚きました。 ただただ「花が花の本性をそのまま開花させる」という、 素朴であるのにもっとも難しい表現に触れたと感じました。
文筆家・映像作家・俳優:小川紗良さんコメント
切り取られてきたものを、自らの手で「撮り戻す」。その覚悟があまりに強く押し寄せて、私はただ、見つめることしかできなかった。自分の無力さを知り、同い年の彼女のまなざしに心から敬意を抱いた。
哲学者・作家:永井玲衣さんコメント
この作品は、ひとつひとつの言葉がとぎすまされている。たっぷりとした時間と、ていねいな葛藤が、言葉をはりつめさせるのだろう。作品を受け取ったわたしたちにできることは、今も、これからも、もがきながら向きあうひとたちをひとりにしないことなのだろう。
青山学院大学教授/映画研究・評論:三浦哲哉さんコメント
他人に撮られてしまうことの違和感は、自分自身が撮ることで消えただろうか。
おそらくそうではないだろう。
しかし、違和感からけして目を背けず、違和感を抱きかかえながら撮り切ることで、この真摯で勇敢な制作者は、確実に大きな一歩を踏み出し、これまで誰もスクリーンで見たことのない光景を現出させた。
映画監督:三宅唱さんコメント
心打たれました。つい何度も涙がこぼれ落ちそうになりながら、それを押しとどめられるような凄みがありました(といっても2回目は、冒頭とタイトルとバスと合唱と他いろいろと、ぜんぜん我慢できませんでしたが)。もし、今年公開される映画のうち一本しか10年後に持っていけないとしたら、『春をかさねて』を選びます。題材ゆえというよりも、映画としての具体的な探求ぶりに、その真剣な実践に、同じ時代の作り手として、一人の人間として、深く驚き、反省し、刺激を受けました。
せんだいメディアテーク館長:鷲田清一さんコメント
ちぎれ、もつれ、散らばってしまった心はいつか元に戻せるのだろうか? 時がやがてそれを平らにしてくれるのかもしれないが、もっと大事なのはそれを他人と持ちあえるかどうかだと、この二つの映画に教えられた。
『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』は、12月7日土曜日より27日金曜日まで東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムで3週間限定公開されるほか、全国順次ロードショー。
シアター・イメージフォーラムでは、公開初日の12月7日に佐藤監督の舞台あいさつとQ&A、12月10日に震災後の東北を題材としたドキュメンタリーを手がけている映像作家の小森はるかさんと佐藤監督がトークをおこなうほか、『ナミビアの砂漠』(2024年)などの監督で佐藤監督の大学時代からの友人である映画監督・山中瑶子さんら、佐藤監督とゆかりのあるゲストを招いてのトークが公開期間中に予定されており、詳細は今後作品公式サイトや劇場公式サイトで告知されます。
『春をかさねて』作品概要
「妹さんの安否を知ったときのこと、教えていただけますか」
14歳の祐未は、被災地を訪れるたくさんのマスコミからの取材に気丈に応じている。一方で、同じく妹を亡くした幼馴染・れいは、東京からやってきたボランティアの大学生へ恋心を抱き、メイクを始めた。ある放課後、祐未はそんな彼女への嫌悪感を吐露してしまう。
二人の女子中学生の繊細な心の揺れを瑞々しく描き出すフィクション。震災遺構として現在は立入禁止となっている大川小学校などで撮影された。
春をかさねて
- 齋藤小枝 齋藤桂花 齋藤由佳里 芝原弘 秋山大地 安田弥央 幹 miki 鈴木典行
- 製作・監督・脚本・編集:佐藤そのみ
- 撮影:織田知樹/李秋実
- 録音:養田司/中津愛/工藤忠三
- 配給:半円フィルムズ
- 2019年/カラー/45分
2024年12月7日(土)より27日(金)までシアター・イメージフォーラムにて3週間限定公開 ほか全国順次ロードショー
『あなたの瞳に話せたら』作品概要
東日本大震災による津波で児童74名・教職員10名が犠牲になった石巻市立大川小学校。大川小で友人や家族を亡くした当時の子どもたちは、あれから何を感じ、どのように生きてきたのか。それぞれが故人に宛てた手紙を織り交ぜながら、自身も遺族である「私」がカメラを持って向き合う。震災から8年半、時間が変えたものと変わらないもの。書簡形式のナレーションで素朴に語られる言葉に宿る、やわらかな感性に胸を打たれる。