注目の若手俳優・河合龍之介さんインタビュー
石原真理子さんがベストセラーとなった自叙伝をもとに、自らの監督で映画化する話題作『ふぞろいな秘密』。この作品で主人公の恋人・山置洋二役として主演に抜擢され、注目を集めているのが河合龍之介さん。2005年のミュージカル「テニスの王子様」で一躍人気となり、その後も舞台、ドラマ、映画と着実に活動の場を広げてきた河合さんは、今、その活躍から目の離せない若手俳優のひとりです。
今回のインタビューではそんな河合さんにクローズアップ。『ふぞろいな秘密』についてはもちろん、俳優としての活動を始めるきっかけや、大きなステップとなった「テニスの王子様」、そして「年間300本映画を観る」ことを目標にするほどの映画ファンでもある河合さんの映画に対する想いなど、たっぷりとお話をうかがってみました。
河合龍之介(かわい・りゅうのすけ)さんプロフィール
1983年東京都生まれ。高校時代にはバスケットボールでインターハイ出場。大学卒業後の2005年にミュージカル「テニスの王子様」で本格的な芸能活動を開始。以降、舞台、テレビ、映画と幅広く活動。おもな出演作に舞台「スラブ・ボーイズ」(2006年)「研修医魂(けんだま)」(2007年)、TVドラマ「Pinkの遺伝子」(2005年)、DVDドラマ「斬セイバー」(2006年:主演)、劇場映画『真夜中の少女たち/センチメンタルハイウエイ』(2006年/堀江慶監督)など。
現在、テレビ東京系で放映中のドラマ「美味學院」にレギュラー出演中。劇場映画『ふぞろいな秘密』(石原真理子監督:6月16日公開)、『いつかの君へ』(堀江慶監督:7月公開予定)が公開を控えているほか、DVDドラマ「斬セイバー」(第3・4話)が6月リリース予定。また、FM TOKYO携帯サイト「MUSIC VILLAGE」で映画コラムを担当し、マルチな才能を発揮している。
『キッズ・リターン』で芽生えた映画への想い
―― プロフィールを拝見するとずっとスポーツをやられていたそうですが、映画に興味を持たれたのはいつごろだったんですか?
河合:高校2年生のときに、ずっとやっていたバスケを一度やめたことがあって、すごく映画を観る時間があったんです。それまでも映画は観ていたんですけど、洋画ばかりでしたし、アクション映画とか、みんなが普通に観るような映画が多かったんです。日本映画って地味なイメージがあって、あまり興味がなかったんですけど、そのときにたまたま北野武監督の『キッズ・リターン』(劇場公開1996年)のビデオを手に取ったんですね。そしたらすごい感動しちゃって、映画の力ってすごいと思ったんです。
―― 『キッズ・リターン』のどんな部分に魅力を感じられたのでしょうか?
河合:安藤政信くんのやっていたシンジという役が当時の自分の姿とシンクロしちゃって、フィクションとして観られないというか、自分自身を見ているようで、すごく切なくなっちゃったんです。今までそういう感動ってしてきたことがなかったので、すっかり『キッズ・リターン』にはまってしまったんです。そこから始まって、じゃあ北野武さんが尊敬している監督って誰なんだろう、安藤くんはほかにどんな作品に出ているんだろう、モロ師岡さんが出ている作品はなんだろうと、おのずと日本映画全般に興味が広がって、好きになっていきましたね。それで映画への想いが強くなって、こういうものを仕事にできたら幸せだろうな、将来は映画の仕事がしたいと思ったんです。それは役者としてではなくて、スタッフ的な立場の人間になりたいなと思っていたんです。
―― では、俳優のお仕事を始めるきっかけはなんだったんですか?
河合:ちょうどその時期にスカウトされたんですけど、最初は同じ映画に関わる仕事であっても俳優という仕事に対してすごく苦手意識があって、自分がなりたくない職業のベスト3には入っていたんですよ(笑)。でも、事務所に誘ってもらうなんて滅多にないチャンスだし、それまでぼくは苦手なことにチャレンジするということをまったくしてこなかったんですね。だから、これは転機になるかもしれないと思って始めてみたんです。そしたら、案の定できない(笑)。こんなにできないことは今まではなかったなというくらいできなくて、できないからこそ、今も役者を続けているという感じですね。
―― 一方で早稲田大学に進学されていますが、大学時代には映画について勉強されたりとかは?
河合:全然してなかったですね(笑)。というのは、大学1、2年生のときは、体育会でバスケをやっていたんですよ。高校で一度引退したんですけど、その終わり方が自分で納得できていなかったものですから、自分の中で区切りが付けられるまでやってみようと思って、大学に入ってからまた挑戦したんです。だから1、2年のときは仕事も単発のCMにちょこっと出させていただくくらいで、できるだけ部活に影響のない方向でやらせていただいていましたし、ほんとにバスケ中心だったので、あいた時間に映画を観たり、大学の劇団とか映画サークルを観にいったりとか、早稲田だといろいろな監督さんが講演にいらっしゃるので、その講演に潜り込んだりとか、自分はとっていないのに映画の授業に出たりとか、それくらいですね。
―― 「それくらい」と言いつつ、すごく熱心に映画に触れられていますね(笑)。そのころに聞いた講演などで、印象に残っているものはありますか?
河合:映画監督の映画に対する想いというものを特に感じたのが大林宣彦さんですね。大林監督は映画に対する想いをすごく切々と語っていて、ほんとに映画を良くしたいんだというのを講演を通してすごく感じたんですよ。だから、講演が終わってから直接お会いしにいって「自分は役者としてこれから頑張っていくので名前だけ覚えてください」っていって名前だけ伝えにいったんです。それが印象に残っていますね。
―― 目標のために役立つ機会をいかして、すごく有意義に学生生活を送られていたんですね。
河合:どうでしょうね、一応4年で卒業はしたんですけど、自分の学部の授業に出ていたかといえばあんまり出ていなくて(笑)。ほんとに自分の興味ある授業だけに潜り込んでいたし、興味ある授業がないときには学校には行かずに映画館をハシゴしていたんです。高田馬場の駅から早稲田に歩いていくと、途中に早稲田松竹があるので、学校へ行くつもりでもつい松竹に入っていっちゃったりとか、新宿で降りて映画館に行っちゃったりとか、学校までちゃんとたどり着けたことがあまりなかったんで、どっちかというと映画館のほうが学校でしたね(笑)。
大きな経験となったミュージカル「テニスの王子様」、そして初の劇場映画
―― 2005年に大きなお仕事としてミュージカル「テニスの王子様」(原作:許斐剛/集英社「週刊少年ジャンプ」連載)に出演されていますね。
河合:大きかったですね。それからの積み重ねで、やっと今ここにあるって感じなんで、それ以前にもお仕事はあるんですけど「テニスの王子様」が大きな山ではありましたね。
―― でも、もともと目指されていた映画とはちょっと違うフィールドでの仕事ですよね。正直、決まったときはどうお感じになりましたか?
河合:ほんとに正直なところを言うと、抵抗があったんですよ(笑)。舞台に関する素養もなかったし、ましてやミュージカルということで、自分のやりたい仕事からはかけ離れているんじゃないかと思って、これはほんとに自分が今やるべきお仕事なのかなってすごい考えたんです。だけど、マネージャーさんにも相談したら、やっぱり役者なんだから一歩一歩積み重ねていかなきゃいけないと言われて、むしろ自分が知らない世界に飛び込んでいくことが大事なんだと気づかせてもらったんです。実際にやってみたら、すごく楽しかったし、やりがいも感じました。「テニスの王子様」ってたくさんの人が観にきてくださる舞台で、ずっと舞台をやっている方たちでも、あれだけの大きな舞台に立たせてもらえる機会はなかなかないだろうし、その中で芝居の勉強と、ダンスと歌と、いろいろなことを経験させてもらえるっていうのは、真剣にやれば財産になると思いました。同時に、ここで満足してしまってはいけないなというのは感じていました。やっぱり、若いこれからの役者にとって、チヤホヤされることで満足してしまう部分はあると思うんです。でも、それは一番いけないことだと思ったんです。あくまでもぼくは映画という目標が一番先にあるので、まだまだここで満足せずに、吸収できることは吸収して次につなげていきたいなと思ってやっていましたね。
―― 人気の高い作品に出演するということでのプレッシャーはありませんでしたか?
河合:責任は重大でしたね。この舞台をやることで「テニスの王子様」という作品を好きな方たち、興味を持っている方たちの強さというのをすごく感じましたし、お客さんが誰よりも役の特徴を知っているんですよね。だから役作りが甘ければすごく指摘されますし、みなさんがイメージしている役を超えていかなければならないんです。いい意味でお客さんと闘っていかないとちゃんと観てもらえないっていうのがあったので、役作りの厳しさというものを勉強させられました。プレッシャーもありましたけど、ぼくはそういうものを自分の芝居で覆せていけたら大成功だなって思っていたんです。みんなが思うとおり忠実に演じるだけではなくて、それにプラスして自分にしか表現できないものを役を通して表現していかなければ意味がないと思っていたので、プレッシャーを力に変えていったかたちですね。
―― もうひとつ「テニスの王子様」という作品の特色として、大勢の若い男優さんたちが長い期間を一緒に過ごすわけですよね。そこで得たものというのはありますか?
河合:これだけの人数でやらせてもらったお仕事はなかったので、刺激になりましたね。口には出さないですけど、お互い絶対に負けたくないっていうのはあったし、ここからヨーイドンでみんなで勝負して淘汰されていく世界なんだなっていうのを感じて、意識はしていました。その一方で、みんな年も近いですから仲良くワイワイ楽しくできましたし、若い役者たちが舞台を通してどれだけ成長していくかというのがこの舞台のひとつのテーマで、お客さんもそれを楽しみにしてくれているんです。それを感じながらやっていけたので、もちろんライバルではあるんですけど、みんなで頑張っていこうという空気が生まれていたのが、やっていてすごく幸せでした。テニスというスポーツを通した舞台なので、部活の延長線上のような連帯感みたいなのはありましたね。
―― 「テニスの王子様」が2006年まで続いて、2006年にいよいよ劇場映画の『真夜中の少女たち』(※)に出演されていますね。
河合:それまでにドラマにちょこっと出させてもらう機会もあったので映像は初めてではなかったんですけど、初めて映画の現場に入って嬉しかったですね。しかも監督が堀江慶さんで、以前から堀江さんの作品は観ていたので、知っている監督と現場で一緒になれるというのは格別でした。
―― 初めての映画の現場はいかがでした?
河合:映画の現場って独特の雰囲気があるんですよね。すごくワンシーン、ワンカットに時間をとるし、丁寧に撮るんです。ドラマが丁寧ではないというわけではないんですけど、ドラマは時間的な制約ももっと密な感じですし、スピードや瞬発力みたいなものが映画よりも求められると思うんですよ。だからドラマはほんとにプロフェッショナルな世界だと思うんです。もちろん、映画がプロフェッショナルじゃないということではなくて、映画の現場ってすごく度量が深くて、大きく迎え入れてくれるんです。ぼくはまだまだ演技は素人で、できないことばかりですし、『真夜中の少女たち』ではほかにも経験の少ない方もいたと思うんですけど、監督や現場の方たちに導かれて、すごく力のある表現ができたと思うんです。素人みたいな役者でもプロフェッショナルな方に負けないようないい演技ができてしまう。それは映画の現場ならではだと思いますし、それができるのが映画という媒体の大きさなんだというのを感じました。
―― 堀江慶監督は監督としてはすごく若い方ですし、若い監督の現場でということでやりやすかった部分もあるのではないでしょうか?
河合:ありますね。堀江さんはすごく話しやすいですし、堀江さん自身も役者もやっていらっしゃるので、役者の気持ちを理解してくれているんです。役者がどういうところで悩んでいて、そのときにどうしたらいいかというのを全部わかっている方なので、やりやすいんです。『真夜中の少女たち』を観たときに、みんなイキイキしているなっていうのを感じたんです。それは、みんなが力まずにできて、それぞれのいいところがにじみ出ていたからだと思いますね。
- ※:映画『真夜中の少女たち』は4編からなるオムニバス映画。堀江慶監督と佐伯竜一監督が2編ずつメガホンをとっており、河合龍之介さん出演の「センチメンタルハイウエイ」は堀江監督が手掛けている
『ふぞろいな秘密』に感じて欲しいもの
―― 今回、石原真理子監督の『ふぞろいな秘密』の主演をつとめられていますが、この作品にはどんな経緯で出演することになったのでしょうか?
河合:オーディションで選んでいただきました。1次オーディションから3次まであって、2次審査で候補者が3人に絞られて3次で決定するという感じだったんですけど、実はぼくは2次のときにほかの映画の撮影をしていたので2次に行けなかったんですよ。だからもうチャンスはないなと思っていたんですけど、監督が2次に来られなかった役者を集めてもう一度選び直したいということで、ぼくもチャンスをもらったんです。それで決めてもらったんですけど、そのオーディションのときは面接と演技の実技審査を2時間くらいかけてやったんですよ。それくらい監督は熱心にこの作品を良くしたいんだというのを感じました。
―― 原作もベストセラーになっていますし、ほかの映画とは違った面でも注目されるところがある作品ですよね。それについてはどうお感じになっていますか?
河合:覚悟はしていました。ほかの映画と違ったかたちで注目されるというのも理解していましたけど、脚本と役を好きになってやらせてもらった作品なので、今までに自分がやってきた仕事としてはなんら変わりはなくて、純粋にこの作品に関われたことが嬉しかったですし、そういうことで注目されることに関しては、全然問題はなかったですね。
―― 今回の役は、実際の河合さんより年齢が上で、結婚もしているという設定ですが、演じる上で苦労はありませんでしたか?
河合:今までも年齢が上の役をやらせてもらう機会はあったんですけど、そのときも年齢についてははあまり意識はしないんです。普段でも会った人が何歳なのかとかが、すぐわかるわけでもないですよね。だから年齢ってそんなに重要視されるものではなくて、大事なのは中身だったり表現の仕方だと思うんです。ただ、今回は年齢が上なのに加えて、何年か経ったあとの役を演じる部分があったので、その部分の重みは理解しなければならないと思っていました。その人が生きてきた人生の重みは第一に表現しなければならないし、ましてやミュージシャンで、売れていて、恋愛もただの恋愛じゃなくて激しい恋愛をしている。それは自分が今までに経験したことではないですから、自分で肉付けしなくてはならないところでしたね。
―― ベースとして石原監督の実体験があるわけですよね。それを演じる難しさというのはありましたか?
河合:役については監督とはほんとにコミュニケーションをたくさんとりましたね。役作りの時間がそんなになかったこともありますし、やっぱり実体験というのがリアルなんですよね。それをそのまま表現しようとは思わなかったんですけど、役作りの段階で絶対にプラスにはなると思ったんで、実際の話を聴くのが一番早いと思ったんですよ。自分だけで脚本をいくら読んでもなにも進まなかっただろうし、とことん話し合いました。
―― 石原監督自身の作品への思い入れは強かったと思うのですけど、それは現場では感じましたか?
河合:やっぱり、どんどんヒートアップしていて、監督の想いというのが伝わってきました。ぼくは全然気づいてなかったんですけど、あとで聞いた話だと激しいシーンの撮影のときは裏で泣いていたこともあったらしくて、監督の中で自分とダブる部分が出てきたのかもしれないですね。
―― では、監督は撮影期間中はずっと作品に入り込んでピリピリしているような感じだったのでしょうか?
河合:いや、それはなかったですね。その切り替えはさすがだと思いました。撮影が始まるとちゃんと監督のスイッチが入って切り替わるみたいな感じでした。だからスタッフからの評判も良かったですし、ぼくら役者も演出を受けてやりやすかったですし、監督として尊敬しています。
―― 石原マリコ役を演じた後藤理沙さんの印象はいかがでしたか?
『ふぞろいな秘密』より。山置洋二役の河合さんと石原マリコ役の後藤理沙さん
河合:実は、後藤理沙ちゃんとは同い年なんですよ。彼女がデビューした頃もテレビで見たことがあるので、、最初はテレビ画面で見てた人だから会ったら緊張しちゃうなと思ってましたね(笑)。だけど実際に現場に入ってみると、ほんとにすごく気が回る方で、芝居がやりやすかったです。ぼくはいつも一緒に仕事をする人とのコミュニケーションを大事にするんですけど、意識しないでも自然にコミュニケーションができていました。ぼくが暴力を振るうシーンは、やる立場のぼくもつらいくらいのシーンだから、彼女はもっとつらかっただろうなって思うんですけど、そういうシーンでも「本気で来ていいよ」ってズバッて言ってくれたので、すごくやりやすかったです。ほんとに女優として肝が据わっていて、男らしいなって思いました(笑)。
―― その、ラブシーンや暴力シーンというのも今まで演じたことのなかった部分だと思いますが?
河合:そういうシーンに対して特別な意識はなかったですね。それがテーマではないので。最終的なこの映画のテーマは恋と愛だと自分では思っていて、それを表現するためのひとつの手段がラブシーンであったり暴力的なシーンだったりするので、その部分だけを強調してやろうとかいう気はまったくなかったし、それは監督も同じように思っていました。そういうシーンについて、いろいろな人から「すごい濃密な感じなんでしょ」と聞かれることも多いんですよ(笑)。でも、現場では映画のテーマに繋げるためにどう表現したらそのシーンが良くなるかということを第一に考えていたので、そのシーンだけを注目してもらうためのシーンにはならなかったですね。
―― では、公開前にスキャンダラスなかたちで話題になったりもしていますが、映画はもっとナチュラルにとらえて欲しいという感じですか?
河合:いや、スキャンダラスなところから入ってもらっても構わないんですよ。それで実際に作品を観たときに、それとズレがあるなっていうのを感じてもらえればいいと思うんです。映画で伝えたいものは別にありますし、それは原作でも同じだったと思うんです。だけど原作ではスキャンダラスな面だけがフィーチャーされたりしていたんですよね。監督が映画を作ろうと思ったのも、本来伝えたかったものを強調したかったんだと思うんです。DVとかベッドシーンのような激しいシーンとか、不倫だとか、スキャンダラスなことばかりがフィーチャーされることが多いんですけど、すごく素敵な話だし、決して特別な話ではないと思いました。伝えたかったことっていうのはひとつなので、それを多くの人に観てもらいたいなという想いがあります。
―― そしてもう1本『いつかの君へ』という作品が公開予定となっていて、こちらは監督が堀江慶さんで、主演が「テニスの王子様」で共演した斎藤工さんと、以前から縁のある方たちとのお仕事ですね。
河合:それだけでやりたいなと思いましたね。堀江さんの監督する作品にまた出られるのも嬉しかったですし、斎藤工くんは業界の中でも特に強いつながりを感じている役者さんのひとりなんですよ。彼も「テニスの王子様」が大きなステップだったと思うんですけど、彼もぼくと同じで映画が好きで、映画をすごく大事にしていきたいという想いを持っているんです。最初に会ったときからそういう話はしていて、彼もすごく『キッズ・リターン』が好きなんですよ。それを知ったときからずっと仲良くさせてもらっているので、今回も一緒にできて単純に嬉しかったですし、きっといい作品になるんじゃないかと思っています。
多くの人に伝えたい「映画の力」
―― 今年はすでに映画が2本あって、ドラマ「美味學院」もあってとなると、なかなか映画をご覧になる時間もないですよね。
河合:ですね。今年は300本映画を観るのが目標だったりするんですけど、まだ100本まで行っていないですね。
―― 4ヶ月で100本はそうそうできることじゃないですよ(笑)。
河合:いや、もう今100本行っていないとやばいと思うんですけど(笑)。
―― 最近、ご覧になった作品で印象に残っているものというと、どんな作品になりますか?
河合:『無法松の一生』(1958年)ですね。三船敏郎さんが主演で、稲垣浩監督の作品です。すごいパワフルで面白かったです。三船敏郎さんといえば日本映画の中でもトップの方だと思うんですよ。その三船さんのエンターテイナーとしてのすごさや、人間性の素晴しさがほんとに出ている映画なので、これはもう日本映画の中でも偉業となる作品なんですね。
―― 新しい作品から古い作品まで、区別なくご覧になっているんですね。
河合:最近は古いのが多いですね。遅ればせながら時代劇も去年からすごく良く観るようになりましたし、良く名画座に行って、2本立てを2回観たりして、結局4本観ちゃったりするんです(笑)。日本映画だけではなくて、ヨーロッパ映画も好きですし、韓国映画は大好きです。それから中国、中東、ラテンアメリカの映画も好きですね。ハリウッド映画はあんまり観ないですね。
―― 最近は名画座も少なくなってしまいましたね。
河合:そうですね。でも、去年新しく渋谷にシネマヴェーラ渋谷という名画座ができて、今、ぼくの一番お気に入りの映画館ですね。あとは京橋にあるフィルムセンターにも良く行きます。あそこはちょっと安くていいんですよね(笑)。
―― やっぱり、DVDやビデオではなくて映画館で観る派ですか?
河合:特に最近はそうですね。DVDは、あれも観たいこれも観たい、と思って借りるんですけど、ちゃんと観られたためしがないですね(笑)。家だと、2時間座って観るというのがなかなかできないですね。映画館って独特の緊張感がありますし、そのときに一緒になったほかのお客さんのリアクションを楽しみながら観るのが家だとできないですよね。あと、余韻も違いますね。最近思うんですけど、映画を観るのって心地良い睡眠と似ているなって。すごくさわやかで、浄化されたような気持ちになるんです。それって映画館じゃないと味わえないものですね。
―― その、映画を観る気持ち良さというのを、河合さんが出演している作品を通じてみなさんにも体験していただければ嬉しいですね。
河合:そういう役者になりたいですし、それプラス、日本映画というものを、これからの若い人たちに少しでも多く観て欲しいと思います。いい作品はたくさんありますし、ぼくも映画に成長させてもらった立場の人間なんで、映画の力というものを多くの人に感じてもらえるように、役者という立場で伝えていけたらなって思います。やっぱり役者って影響力のある仕事だと思うので、念願の映画のコラムも書かせていただくことになりましたし(FM TOKYO携帯サイト「MUSIC VILLAGE」で連載)、演じるだけに留まらずに、いろいろな部分で多くの方に映画をアピールしていけたらいいなと思っています。
(2007年4月17日/ティー・アーティストにて収録)