『迷宮カフェ』藤原薫さんインタビュー
訪れた者が次々と姿を消すという噂のある小さなカフェ。若く美しい女性オーナー・マリコが営むそのカフェには、それぞれの理由で生きることに絶望した人々が集まっていた。そしてカフェに集まった常連客は、ある約束をマリコと交わす……。
山中の小さなカフェが舞台の『迷宮カフェ』は「骨髄移植」を題材にしたヒューマンドラマ。カフェの「秘密」をめぐるミステリータッチの物語の中に骨髄移植の知識も盛り込まれた、異色のエンターテイメント作品となっています。
カフェの客のひとりで、過去に大きな事件を経験している孤独な青年・スグルを演じたのは、2010年公開の『告白』で注目を集めた若手実力派俳優・藤原薫さん。新鋭・帆根川廣監督が作り出す独特の世界の中、観客を引きつける存在感を発揮してスグルを演じています。
現在19歳、すでに多数の映画やドラマに出演し、今後さらなる活躍が期待される藤原さんに『迷宮カフェ』について、俳優というお仕事についてお話をうかがいました。
藤原薫(ふじわら・かおる)さんプロフィール
1995年生まれ、東京都出身。小学生時代より子役として活動を始め、2010年に『告白』(中島哲也監督)で重要な登場人物のひとり・少年Bこと下村直樹を演じて注目を集める。その後も多くのドラマや映画、CMなどに出演している。
最近の出演作に、映画『悪の教典』(2012年/三池崇史監督)『鈴木先生』(2013年/河合勇人監督)『人狼ゲーム』(2013年/熊坂出監督)、テレビドラマ「幽かな彼女」(2013年・CX)「学校のカイダン」(2015年・NTV)「花燃ゆ」(2015年・NHK)など。
「体験できないような役柄は、想像したり相談したりして演じていきますね」
―― まず、初めて『迷宮カフェ』の脚本を読んだときのお気持ちから聞かせてください。
藤原:一番思ったのが、自分自身が演じるスグルという役が、これまで自分が演じてきた中にはない新しい役柄だなということで、脚本を読んでいくにつれて、ほかのキャストのみなさんと演じていくのが楽しみだなと思いました。それから、この作品は骨髄移植がテーマとなっている映画なので、骨髄移植についても自分が考えていたこととは違う新しいことが学べた作品でした。
―― 「新しい役柄」だと感じられたのは、具体的にはどういう部分なのでしょうか?
藤原:いままで演じてきた中では、引きこもりのような役が多かったんです。今回のスグルはそういう役と似ている部分もあるんですけど、誰からも相手にされず孤独で闇を抱えて生きてきたのが、他人と関わることで自分の命の大切さとか人との関わりあいの大切さをわかりはじめていく役なんです。考え方が変わっていって、心情も映画の始まりと終わりで違っていくというところが新しい部分だと感じました。
―― そういう新しい役柄を演じるにあたって、どう役作りをされたのでしょうか?
藤原:スグルという役は実際に体験できるような役柄じゃないんですね。そこが一番大変だと感じていて、体験できないので頭の中で想像して、自分の考えで整理して演じるというのが大変でした。その中で、自分自身の考えも含め、ほかのキャストや監督とも「この役柄についてどうしたらいいか」というような相談をして役作りをしていきました。
―― これまでも体験するのが難しいような役はあったと思うのですが、そういう役でも役作りは同じようにされていたのですか?
藤原:そうですね。体験できないような役柄は、想像したり「こういう考えじゃないかな」ということをほかの人と相談したりして、それをまとめて役を演じていきますね。
―― 監督さんやほかのキャストの方と役についてお話された中で、特に演じる上でポイントとなったようなお話があれば教えてください。
藤原:はい、演じていく中で「この部分はどういう感情にしたらいいのかな」というのを監督と相談したときに、監督に「じゃあ、この部分は藤原くんが考えるイメージで演じていいよ」と言われて、言われたとおりに自分が思っているスグルという役を演じてみたんです。そのあとに監督が「すごく良かったよ」と言ってくれたので、それは今回スグルという役を演じる中で一番、勇気づけられた言葉でした。
―― スグルという役は、映画の中で恋愛の要素もありますね。そこも新しい部分だったのではないでしょうか?
藤原:そうなんです。人を好きになるという役を演じるのは初めてだったんですけど……。そうですね、演技で「この人が好き」というのを表すのは難しかったですね(笑)。
―― スグルの恋愛の相手は、けっこうキツいことを言ってきたりする女性ですよね。そういう人に惹かれる気持ちというのは共感できましたか?
藤原:ええっ、自分がですか?(笑)……でも、キツい言葉を使ったりするけれど、この人は自分のことを見ていてくれているんだということを感じるような役柄だったので、そこに惹かれるというのは自分自身でもわかる部分がありますね。
「どの現場でも心がけていることがあって、本番に入る前には必ず深呼吸をするんです」
―― 今回は、マリコ役の関めぐみさんをはじめ、市川由衣さんや角田信朗さんなど、個性豊かなキャストの方々が揃っていらっしゃいますが、共演されていかがでしたか?
藤原:ほんとに、この『迷宮カフェ』の共演者のみなさんとはすぐ打ち解けあって、関めぐみさんとは撮影中にお笑いのネタをやるようなふざけあいの場もありました(笑)。それから、角田さんは、格闘家の方なので筋肉がすごいんですよ。なので筋肉についていろいろと勉強させてもらったところがあって(笑)。すごく「ずっとここにいたいな」と感じる現場でしたね。
―― メインキャストの中だと藤原さんが一番年齢が下ですが、ほかのキャストの方とはどんな雰囲気だったのでしょうか?
藤原:なんか、自分で考えてみても年下というふうに見られていなかったような感じがします(笑)。役者として感じる部分もあるんですけど、2週間くらいずっとロケをしていたので、年齢は関係なく友達のような感覚もありました。
―― スグルは、ほかの登場人物と距離を置いているようなところがありますが、実際に現場でほかのキャストの方との距離というのは意識されていましたか?
『迷宮カフェ』より。藤原薫さん演じるスグル(右)は、関めぐみさん演じるマリコの営むカフェを訪れる……
藤原:それはなかったですね。演じるときは演じて、撮影じゃないときは普段の自分というふうに分けているので、もちろん集中するときはありますけど、撮影じゃないときにほかのキャストのみなさんと距離を置くということはなかったです。
―― スグルのような役ですと、そうやって撮影のときとそうじゃないときで切り替えるのも大変なのではないでしょうか?
藤原:そうですね、切り替えは大変でしたね。
―― 切り替えるために意識されていたことはあるのでしょうか?
藤原:はい、どの現場でも心がけていることがあって、本番に入る前には必ず深呼吸をするんです。気持ちを改めるというか、心を役にすべて注がなくちゃいけないから、深呼吸をして心を落ち着かせているというのはどの現場でもやっていることです。
―― 映画の中で藤原さんご自身が好きなシーンや印象に残っているシーンがあれば教えてください。
藤原:この映画はところどころにコメディというか、ちょっと笑える部分があるんです。特に、角田さんの演じた松浦という役が、見た目にはすごく強そうな感じなんですけど実際はちょっと気弱なところのある役で、みんなで気弱な松浦を応援するみたいなシーンがあって、そういうシーンは撮影をしていて「楽しいな」と印象に残った部分でした。
―― 冒頭にも少しお話が出ましたが、この映画は骨髄移植を題材にしていますよね。その部分で特に感じられたことはありましたか?
藤原:ほんとに、この映画に関わるまでは「骨髄移植」という言葉は聞いたことはあるんですけど詳しくは知らなかったので、まず両親に「骨髄移植ってなに?」と聞いたんです。そのときに、病気でつらい想いをされている方たちがいらっしゃるとか、移植も大変なんだという話を聞いていたんですけど、この映画では骨髄移植について説明する部分があるんですね。それを観て、自分が移植ドナーに登録していれば誰かが助かることがあるんだということを知ったんです。
「演じるということがすごくやりがいのあるものだなと感じたんです」
―― 藤原さんは子役時代からお仕事をされていますが、演じるというお仕事に興味を持たれたきっかけはなんだったのでしょうか?
藤原:芸能界という部分でのきっかけは8歳のときにスカウトされたことなんですけど、そのあと中学2年のときに映画『告白』で、少年Bという役を演じて、その役は映画にとっても重要な役でしたし、自分自身にとっても重要な役になったんです。自分が演じることによって映画自体も注目されたり世間のみなさんが自分を見てくれるというのが、すごくやりがいのあるものなんだなと感じたんです。そこが「演じる」ことをずっとやっていきたいなと思ったところですね。
―― やはり、いろいろな作品にご出演されている中でも『告白』は大きな作品ですか?
藤原:はい、大きかったですね。
―― ほかのお仕事で印象に残っている作品はありますか?
藤原:どの作品も印象に残っているんですけど、ドラマの「白虎隊〜敗れざる者たち」(2013年・TX)という作品があって、初めて時代ものをやった作品だったので印象は強かったですね。時代ものなので、礼儀作法とかその時代について勉強になった部分が多かったので印象に残っています。
―― これまで出演された作品を拝見すると、いい作品との出会いに恵まれていらっしゃるなと思います。
藤原:そうですね、ほんとに恵まれているなと感じます。
―― そうやって経験を積まれている中で、これから演じてみたい役はどんな役でしょうか?
藤原:あの、けっこうあるんですけど、いいですか?(笑)
―― はい、どうぞどうぞ(笑)。
藤原:自分自身、いままで学園もので生徒役を演じてきたんですけど、今年20歳になるので、大人の世界への第一歩として教師の役を演じたいというのがあるんです。自分の親も教師をやっているので、教師の気持ちや考えを演じることで共感できたらいいなという意味で、教師役を演じたいと思っています。それから、自分の特技を活かした役をやりたいなと思っているんです。スポーツと楽器を吹くのが自分の特技で、スポーツは小学校6年間ずっとサッカーをやってたのと高校でバスケをやっていて、楽器は中学の部活で吹奏楽部をやっていたんです。それを活かした役がやりたいなと思っています。
―― ご出演になった作品以外で、映画やドラマで好きな作品というとどんな作品でしょうか?
藤原:好きな作品は「TRICK」です。堤(幸彦)監督のシリーズはみんな好きで、その中でも「TRICK」は仲間由紀恵さんと阿部寛さんのコンビネーションがすごく面白くて好きでした。
―― では「TRICK」のような作品もいつかやってみたい作品ですか?
藤原:はい、もう、ぜひやってみたいなと思います。
―― 最後に『迷宮カフェ』の公開を前にしてのご心境と、映画のここを観てほしいというポイントをお願いします。
藤原:この映画は、人との関わりあいということと「骨髄移植」がテーマとなっている作品なので、映画を観ていただくことで、みなさんの持っている考えが少しでも変わっていただければいいなと思っています。ぜひ、観ていただきたいですね。
『迷宮カフェ』では翳のあるスグルを演じている藤原さんですが、取材時の藤原さんは言葉のひとつひとつからまっすぐさが伝わってくる、爽やかでちょっとシャイな好青年。ぜひ『迷宮カフェ』で藤原さんの魅力に触れてください。
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(2015年2月13日/スペースクラフトにて収録)