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『ビジランテ』間宮夕貴さんインタビュー

 30年間行方知れずだった長男が、市議会議員となった次男、風俗店店長となった三男の前に現れる。亡父の土地相続を巡り対立する兄弟は、さまざまな人々の思惑が交錯する中、堕ちていく――。
 神藤一郎、二郎、三郎の3兄弟を主人公に、地方都市に蠢く欲望と暴力を描いた『ビジランテ』。スクリーンデビュー以来、話題作への出演が続く間宮夕貴さんは、この作品で長男の一郎に寄り添う恋人・サオリを演じました。
 大森南朋さん、鈴木浩介さん、桐谷健太さんの3人を主演に入江悠監督が築いた『ビジランテ』の硬質な空気の中で、間宮さんは特異な存在感を見せています。男たちが紡ぐダークな世界を、間宮さんはどう見たのでしょうか――。

間宮夕貴(まみや・ゆき)さんプロフィール

1991年生まれ、愛知県出身。グラビアアイドルとしての活動を経て、2013年公開『甘い鞭』(石井隆監督)で主人公の高校生時代を演じ、映画初出演にして大胆な演技で話題となる。その後も映画、ドラマ、舞台で活躍。ロマンポルノ・リブート・プロジェクトの1作である主演作『風に濡れた女』(2016年/塩田明彦監督)で第26回日本映画プロフェッショナル大賞新進女優賞を受賞したほか第59回ブルーリボン賞新人賞にノミネート、作品は第69回ロカルノ国際映画祭コンペティション部門で若手審査員賞を受賞した。
ほかの映画出演作に『フィギュアなあなた』(2013年/石井隆監督 ※公開順では映画デビュー作となる)、『ちょっとかわいいアイアンメイデン』(2014年/吉田浩太監督)、『GONINサーガ』(2015年/石井隆監督)、『屋根裏の散歩者』(主演:2016年/窪田将治監督)など。

「空気を壊そうという意識をつねに持っていました」

―― まず『ビジランテ』の脚本を初めて読まれたときの印象から聞かせてください。

間宮:私はオーディションで決まったので、オーディションの前にホン(脚本)を読ませていただいたんですけど、最近は原作ものの映画が多い中で、この作品は監督オリジナルなので、読んでいてすごくワクワクしました。原作があったら先にそれを読んでしまったりもするので、オリジナルでどういう展開になるのかまったくわからないというのがすごく楽しくて「いまこのホンを読んでいるのは世界に数人しかいないんだ!」って(笑)。なので、これが映像になったらどうなるんだろうというワクワクで、どうしても決まりたいなという気持ちでオーディションを受けました。

―― これまでに入江悠監督の作品はご覧になっていましたか?

間宮:私が大学生のときに、友達に「これ、ものすごく面白いから観て」と言われて観たのが『サイタマノラッパー』(『SR サイタマノラッパー』2008年)だったんです。そのあとも何本か観ていて、今年は『22年目の告白−私が殺人犯です−』を観ています。

―― 『ビジランテ』は『SR サイタマノラッパー』とは地方都市が舞台というのは共通していても、もっとダークというか、かなり違った世界ですよね。その『ビジランテ』の世界にはすんなり入り込めましたか?

『ビジランテ』スチール

『ビジランテ』より。間宮夕貴さんが演じるサオリ

間宮:私は比較的そういう作品が好きなので「ああ、これいいな」という感じで、たまらなかったです(笑)。あと、入江さんってこういうホンも書かれるんだというのが一番ビックリしました。『サイタマノラッパー』もそうですけど、私は神聖かまってちゃんの映画(『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』2011年)も観ていたので、入江さんってそういう感じの人なのかなと思っていたんです。『ビジランテ』に関しては、まったく違う入江悠さんの新しい一面を見られた気がして、一ファンとして嬉しかったですね。

―― そういう世界で生きているサオリという役を、どのように演じようと考えていらしたのでしょうか?

間宮:自分で一番思っていたのは、緊張感がすごく続く作品なので、私が演じるサオリが出てきたときは休憩というか、緩和された瞬間にしたいなと思いながらやりました。サオリが出てきたらホンワカして和んでもらえたらなっていう気持ちで(笑)、それは一番心がけました。

―― たしかに、サオリが初めて二郎と三郎と会ったときのリアクションとか、後半では鼻歌を歌いながら家事をしたりとか、映画の中で日常を感じせる役割を担っていると感じました。その和む感じを出すために意識されていたことはありますか?

間宮:空気を壊そうという意識をつねに持ていました。監督からも「癒やされる感じで」というのは言われていたので、みんなが緊張感を持っている中で「なんかアイツだけ緊張感ないんだよな」って雰囲気にはしたいなって(笑)。「なんかマヌケな奴がひとりいるな」みたいな、緊張感がない感じを逆にちゃんとやろうという気持ちでやりました。

―― 空気を壊すというのは、具体的にはどんなことなのでしょう?

間宮:ちょっとホワホワしていて、監督に怒られなかったらそのままやっちゃおうって。「それは違う」って言われたらもっと緊張感を持ってやろうと思ってやっていたんですけど、あまり怒られなかったですね。鼻歌のシーンも、自分で勝手に作曲して歌っていたんです(笑)。あのシーンは現場では「よいしょ」とか言ってるだけで、あとでアフレコで鼻歌を入れたんですけど、台本には歌う内容が文字で書いてなくて「鼻歌で歌う」と書いてあるだけだったんです。なので監督になにか言われる前に勝手に歌を作ってルンルンで歌ったら、監督も「それでいいです」って(笑)。「ああ、サオリはやっぱりこんな感じなんだな」って思いました。

「相手が一郎のときだけワントーン上げて喋るようにしていました」

―― 間宮さんが演じられたサオリは、大森南朋さんが演じる一郎の恋人という役ですが、間宮さんはサオリと一郎の関係はどんな感じだと考えられていましたか?

間宮:大森さんとも現場でお話をしていたんですけど、サオリは元ホステスで、一郎がサオリのいたお店に現われて、たぶん興味を持ったのはサオリのほうからだろうと。一郎に闇を感じるというか「この人はどういう人なんだろう?」って興味を持つうちに通い妻のようになって、気づいたらお付き合いをしていた感じだよねって。たぶん「お付き合いしましょう」「はい」みたいなことはないだろうなと(笑)。それでズルズル関係を持って「俺、実家帰るぞ」みたいなことを言われて「あ、じゃあついてく」みたいな。あまり計画性がなくて、好きな人のところだったらどこでも一緒についていくような女の子なのかなって。あと、共依存ではないですけど、お互いに一緒にいないとダメになっちゃうみたいな、サオリは一郎のことが好きで好きでたまらないんだろうなって思っていました。一郎もたぶんサオリが好きなんだろうなって思うんですけど、ちょっと……愛情表現にうといんだろうなと思いながらやっていました。

―― その一郎との距離感をお芝居で表現する上で、意識されたり気をつけられたことはありますか?

間宮:一郎と喋るときだけ声がちょっとだけ高くなるかなって。一郎にはかわいい姿をずっと見てもらいたいというか、普段はいまお話しているような声で喋るんですけど、相手が一郎のときだけワントーン上げて喋るようにしていました。

―― 一郎役の大森南朋さんの、役ではなくてご本人の印象はいかがでしたか?

『ビジランテ』スチール

『ビジランテ』より。大森南朋さんが演じる神藤一郎(手前)

間宮:カッコいい(笑)。お会いするまでは、ちょっと近寄りがたい人なのかなというイメージが私の中であったんですけど、すごくフランクに話しかけてくださったり、役について相談できたり、現場でも「こういうすごい人に会って、こういうお芝居をしたことがある」というようなほかの現場でのエピソードを聞かせてくださったりして、すごく親近感があるというか、恋人役だからこそ余計に気を遣ってくださったのかなと思うんですけど、素晴らしい人だなって。全部総じてカッコよかったです(笑)。

―― 主演のもうおふたり、二郎役の鈴木浩介さんと三郎役の桐谷健太さんについても、鈴木さんとはご一緒のシーンが少なかったかと思いますが、それぞれ印象をお願いします。

間宮:鈴木さんは現場でちょっとしかお話していないんですけど、すごくグルメ好きなんだなって思いました(笑)。私の住んでいるところの話になったときに、鈴木さんが「そこの駅の近くのなになにっていう焼肉屋さん知らない? どこどこの路地を曲がったところにある」って言われて「あ、知ってますよ」って答えたら「そこメッチャおいしいんだよ!」って。なので鈴木さんも近くに住んでいらっしゃるのかなと思ったら、鈴木さんは全然違うところに住んでいらして(笑)。それで「なんでそんなに詳しいんですか?」って聞いたら、そういうことを調べるのが大好きで、ずっと口コミサイトとかを見ているというお話をしていて(笑)。私が「今度、仕事でどこどこに行くんですけどお勧めはありますか」って聞いたら「こことここのご飯屋さんがおいしいよ」って教えてくださったり、どこの駅にもお勧めのお店があるみたいで、鈴木さんは私の中ではグルマーですね(笑)。
 桐谷さんは、たぶん大森さんより一緒にいた時間が長かったので、いっぱい話をしました。現場はあまり寝れなくて、普通は現場って夜中の3時4時になったりすると「もう3時じゃん、もう4時じゃん」って「あと1時間くらいで終わるのかな」みたいな感覚になると思うんですけど、ちょっと感覚がおかしくなっていて、3時4時にロケバスとかで「いま何時かな」って携帯を見たら「あ、まだ3時4時じゃん、あと5時間くらい撮れるね」って言っていて、ふたりで「あっ」て感覚がおかしくなっているのに気づいたっていうことがありました(笑)。一郎と三郎とサオリ3人での現場も長くて、3人とももう疲れていたのもあって、喋っている最中にボソッと言った言葉がなんとなく映画のタイトルっぽかったらそれっぽく言うみたいなゲームをしたりしていて、たぶんいまやったら全然面白くないと思うんですけど、寝不足もあってそれが面白くて、3人でずっとケタケタ笑いながら遊んでいました(笑)。すごく楽しい現場でした、大変でしたけど(笑)。

「この映画のスピンオフがあっても面白いのかなって思います、女性だけの」

―― この映画は兄弟である3人の男が主人公の物語ではありますけれど、同時に、間宮さんが演じたサオリ、篠田麻里子さんが演じた二郎の妻の美希、岡村いずみさんが演じた三郎の店で働く亜矢と、男性3人のそばにいた女性たちの物語でもあると感じました。間宮さんはこの映画の女性たちをどう感じられました?

間宮:たしかに、篠田さん、岡村いずみちゃん、私、3人の役って、おのおの全然違う人生を送っている女性で、絶対にこの女性3人でご飯に行くことはないだろうというバラバラの3人なんですよね(笑)。その3人が、血の繋がった兄弟3人によって繋がってしまうというのは、よく考えると面白いなって。なんか、この映画のスピンオフがあっても面白いのかなって思います、女性だけの。女性に目線を置いたらどういう感じなんだろうって。

―― さらに言うと、二郎と二郎の妻の美希の関係が顕著ですけど、サオリも含め、どんな女性がそばにいたかで男性の生き方って変わるという話でもあると思うんですね。

間宮:そうですね、すごく思います(笑)。

―― 間宮さんは、男性が生きていく上でそばにいる女性ってどんな存在だと思います?

インタビュー写真

間宮:やっぱり、気が強ければ強い女性であればあるほど、男の人は出世するんじゃないかなって思いますね。甘やかしちゃえば甘やかすほど男の人ってダメになっていくのかなって思います。サオリは甘やかしてしまう女性だと思うので、一郎はああいう感じになってしまい(笑)、篠田さんが演じている美希のような強い女性がそばにいる二郎は議員の出世街道を歩いていける。世間でも、鬼嫁がいる男性は出世するとよく聞くので、女性が怖いほど男性の地位が上がっていくんじゃないかなって思います(笑)。

―― いま「一郎はああいう感じに」というお話も出ましたが、役を離れて客観的な視点で見て、サオリと一郎を幸せかそうでないかで言うと、どう思います?

間宮:お似合いだとは思います。お互いに求めているものは同じだと思うのでお似合いだとは思いますけど、周りの人間からしてみると、まあ関わりたくはないですよね(笑)。「ちょっと危ないなあのふたり」っていう、親しくなったら火傷しそうな雰囲気はありますけど、でも、あのふたりからしてみたら「幸せなふたり」なんじゃないかと思います。

―― 具体的なシーンでも、もう少し抽象的でも構わないのですけど、間宮さんから観て『ビジランテ』のこういうところが好きだというところがあれば挙げていただけますか?

間宮:やっぱり、兄弟3人が川でケンカするシーンは好きですし、いっぱいあるんですよね……。最後のほうで鈴木さんが演説というかあいさつをするシーンがあって、私は現場は見ていないんですけどすごく好きなシーンで、なにかグッと来るものがあって、試写で観たときに涙が出ました。川のケンカのシーンも私は現場を見ていないんですけど、前日が大森さんと桐谷さんと現場が一緒で、おふたりが「明日は川だ、どうしよう」みたいな会話をしていて、とりあえずあんまり水の中に入りたくないから鈴木さんに落ちてもらおうみたいな話をずうっとしていて(笑)。本編を観たとき、鈴木さんが水にお入りになっているのを観て「ああ、予定通りに行ったんだ」って、それがすごく面白くて、そのシーンで私ひとりだけずっと笑っていたんです(笑)。その会話を知っているのはたぶん私だけなんで、ほんとはすごいシリアスなシーンなんですけど、私には笑えてくるシーンですね(笑)。

―― 最後に『ビジランテ』に興味を持たれている方に向けて、間宮さんからメッセージをお願いします。

間宮:この作品は3兄弟の争いのお話なんですけど、3兄弟をほんとに素晴らしい方々が演じていて、ものすごく面白い作品になっています。兄弟以外の人たちもクレイジーな人たちがたくさん出てくるので、たぶん観た方によって共感する部分がだいぶ違ったりもする作品だと思うんです。なので、友達とかいろいろな人と一緒に観てもらって「自分はこういうふうに観た」というのを話し合えるような作品かなと思います。地方の闇も描かれていて、いろいろ話して盛り上がれる作品かなと思うので、ぜひみなさんで観に来てください。

インタビュー写真

『ビジランテ』劇中とは違った雰囲気の間宮夕貴さん。多彩な言葉で『ビジランテ』について語ってくれました。

※画像をクリックすると拡大表示されます。

  • 12月16日(土)テアトル新宿で開催される『ビジランテ』出演の若手俳優と監督による「ヤングday」と題したトークイベントに間宮さんが登壇します
  • 出演:吉村界人 間宮夕貴 大津尋葵 入江悠監督
  • ※12月10日には裏社会の男たちを演じた俳優陣、23日には三郎の店で働く女たちを演じた俳優と監督によるトークイベントが開催されます
  • 12月10日(日)「ヤクザday」
    出演:般若 坂田聡 龍 坐 大宮将司 蔵原健 三溝浩二 裵ジョンミョン
  • 12月23日(土)「デリヘルday」
    出演:岡村いずみ 浅田結梨 市山京香 入江悠監督

(2017年10月31日/東京テアトル本社にて収録)

作品スチール

ビジランテ

  • 脚本・監督:入江悠
  • 出演:大森南朋 鈴木浩介 桐谷健太  篠田麻里子 嶋田久作 間宮夕貴 吉村界人  菅田俊 ほか

2017年12月9日(土)よりテアトル新宿 ほか全国ロードショー

『ビジランテ』の詳しい作品情報はこちら!

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