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『いちばんきれいな水』ウスイヒロシ監督インタビュー

 病気で11年間眠ったままの姉・愛。両親が外国へ出かけてしまい、妹の夏美とふたりだけになってしまった夜、愛は突然目を覚ます。そして、愛と夏美は初めて姉妹ふたりだけの夏を過ごす――。
 いま注目を集める女優・加藤ローサさんの初主演作となる『いちばんきれいな水』は、古屋兎丸さんの短編コミックを原作に、8歳の心のまま成長してしまった19歳の姉と、大人びた12歳の妹という不思議な関係の姉妹が過ごす、かけがえのない時間を描いた心温まるファンタジー。
 これまで多くのミュージックビデオを手掛け、本作が劇場初監督作となるウスイヒロシ監督にお話をうかがいました。


ウスイヒロシ監督プロフィール
1970年生まれ。サザンオールスターズ、東京事変、 一青窈など多くのミュージシャンの映像作品を手掛け、ミュージックビデオディレクター、映像作家として高い評価を受ける。CMも数多く手掛け、期待を集める中『いちばんきれいな水』で映画監督としてデビュー。


―― 今回『いちばんきれいな水』を監督されるきっかけはなんだったのでしょうか。

ウスイ:ずっと映画をやりたいなという気持はあって、声をかけてもらったというのが一番の理由ではあります。それで、声をかけてもらったときに原作のマンガを読ませていただいて「これならやれる」って直感的に思ったんです。ミュージックビデオでは、行間で語るというか、想像力をかき立てるような作り方をしているんですけど、原作のマンガの持っている雰囲気だったり空気感だったりが、それに近い部分を感じたんですね。自分の心の余白と接点を持てる作品だと思ったんです。それがものすごく原動力となって始まっています。

―― この作品で主人公の愛がずっと眠ったままという設定って、すごく重い話に見えちゃう可能性もあると思うんです。それをすごく温かく、爽やかに描いていますが、描く上で気をつけられた点は?

ウスイ:家族が愛ちゃんに対してどんな感覚なんだろうということですね。おっしゃるとおり、病気の重い側面で考えることもできたんですけど、生まれたての赤ちゃんのいる家庭と同じような気分なんじゃないだろうかと考えたんです。赤ちゃんのいる家庭って、ベビーベッドがあって、そのすぐ近くでご飯を食べて、いつも赤ちゃんの様子に目が届くような環境で生活をしてると思うんですね。そういう感じで、愛ちゃん自体はピュアの塊のままで、家族は赤ちゃんを育てていくのと同じような気持ちで接したり、生活を進めているんだろうと。そういう側面で愛ちゃんを考えていったほうがこの映画で伝えたいことが伝わるんじゃないかと考えていました。

―― その愛ちゃんのピュアな感じを加藤ローサさんが見事に表現していましたが、監督から加藤さんに「こういう風に」という話はされたんですか?

ウスイ:最初に加藤さんと会って話をしたときに、ぼくから「愛ちゃんは赤ちゃんみたいな存在なんです」という話はしました。その一方でローサちゃんからも「自分は子供の頃は野生児だったんです」というエピソードとかが出てきて、そういう「天真爛漫であるけれども、大きくなっていく上での儚さ」みたいなところを感じ取ってもらえていたので、そんなに細かく話したことはないですね。ただ、それぞれのシーンの撮影が始まる前に「こういうシーンでこういう流れだよね」っていう確認の作業はあって、良く覚えているのが、愛ちゃんが初めて起きて、夏美が追いかけていって、夏美が愛ちゃんをおんぶして帰ってくるシーンですね。そのシーンの確認の作業をしているときに「おんぶしていると夏美の匂いを感じるよね。もしかすると赤ちゃんのときからその人の持っている匂いって変わらなくて、それを感じるのかもしれないね」という話をしたんです。匂いってものすごく直感的なもので、愛ちゃんはそれを敏感に感じ取るっていうことをローサちゃん自身がすごく感じてくれていたんです。愛が目覚めて歩くときに葉っぱを触ったりするのもローサちゃんのアイディアで出てきたし、感じてもらって、それを表現をしてもらえれば良いという関係性だったんです。
 愛と(妹の)夏美が指輪の交換をするところの芝居も、どこか儚さが漂う雰囲気になっているのは、ローサちゃんがそういう理解をしていてくれていたからなんですね。だからこちらはその雰囲気を確認するだけで、ぼくから注文するということはなくて、見守っているだけでこっちもグッと来るような感じでしたね。

―― 舞台となるロケ地の雰囲気も良いですね。

ウスイ:いろいろと街を回ってロケハンはしました。そうして見ていく中で、郊外の新興住宅街というのがキーワードになったんですね。新興住宅街って悪い意味ではなくて平均的な作りの街並みが多いと思うんですけど、でも神社の裏に行くと意外と不思議な洞窟があったりとかの発見があったりしますよね。新しくできた街って団地の中にスーパーがあったりするし、その中で過ごそうとすれば、短い距離の中ですべてが済んでしまうと思うんですけど、ちょっと目線を変えるだけで不思議な発見をできる。お話の中で、愛ちゃんが持っている秘密の部分を、夏美はたぶん知らないで育ってきていますよね。それと同じように街も秘密を持っている。そういう設定のある街並みにしたいなと思っていました。

―― 愛と夏美が訪れる“きれいな水”の場所は、まさにそういう秘密の場所ですね。あの場所はセットなんでしょうか?

ウスイ:そうですね、ロケ地とセットを合わせていて、さらにCGでプラスしている部分もあります。あそこはマンガのヴィジュアルのイメージが強かったので、負けてはならないみたいな気持はありましたね(笑)。実際にそれを作っていく中で考えたのは、光がどういう風になっているんだろうということと、水も「どんな水なんだろう?」ということなんです。水って爽快感があって瑞々しいっていう意味合いもあるけど、一方で溺れたりもすることもあるし、怖かったりもしますよね。そういうものが全部含まれているような環境にしたいと考えて、ああいうかたちになっていきました。

―― 水中での撮影は大変でしたか?

ウスイ:水中カメラの方とイヤホンみたいのを通してコミュニケーションをとりながらやっていたんですけど、普通のお芝居を撮るときよりもコミュニケーションは難しいですね。それは演じる側にとってもそうなんですけど、ローサちゃんと(菅野)莉央ちゃん(夏美役)は事前に泳ぎの練習会みたいなのをやって、足のつかない深さで泳ぐときの気持ちを掴んだり、そういうイメージ作りが先にあったので、現場では撮影の忙しさみたいなのはあったんでですけどそんなに苦労はなく取れましたね。

―― 監督は初の映画ですが、カメラマンの蔦井孝洋さんはじめ、スタッフの方々とのチームワークはいかがでしたか?

ウスイ:蔦井さんは、ぼくが監督になってからはお仕事はしたことはなかったんですけど、まだアシスタントをやっていたときにスピッツのプロモーションビデオでご一緒させていただいて知っていたんです。照明の中須(岳士)さんとは何本かミュージックビデオでご一緒させてもらってて、中須さんと蔦井さんは何本か一緒にやっている作品もあるんです。そういうこともあって、このふたりでぜひお願いしたいなというがぼくの中でありました。
 蔦井さんと中須さん以外のスタッフとは、はじめましての状態だったんですね。それで撮影前からいろいろと準備をしながらコミュニケーションをとっていく流れがあって、実際に現場に入るとほんとにいい現場だったんですね。ぼくは映画の経験が初めてだから比較で話はできないんですけど、みんな「こんないい現場はないね」って言うくらい、すごくみんなに楽しんでもらえながら現場が進んでいったんですよ。それは撮影スタッフもそうだし、役者にも伝わっていって、お互い相乗効果でチーム間がひとつになっていく感じっていうのがありました。WBCのイチローみたいに「このチームでメジャーリーグを戦えたら」みたいな(笑)。撮影自体が20日間という短い期間で、振り返るとタイトな日程ではあったんですけど、いいコミュニケーションの中で映画が作れて、ものすごく楽しくて豊かな日々が過ごせましたね。

―― 今後、劇場映画の監督のご予定は?

ウスイ:ぜひやりたい気持ちはあるんですけど、自分の中でもまだ固まっていないモヤモヤばかりなんで、具体的に特にこういう話をやりたいというのはないんですよ。ただ、今回はものすごくピュアな部分を出した作品だったんですけど、もっと汗臭くて男のバカさとかが出ているようなものとかもやってみたいですね。意外に思われるかもしれませんけど、ぼくは『少林サッカー』(2001年/チャウ・シンチー監督)とか好きなんですよ(笑)。あと『トレマーズ』(1990年/ロン・アンダーウッド監督)とか。それから、人にはもっと陰の部分もあるだろうから、そういう作品もやってみたいという気持ちはありますし、いろいろと漠然としたものはあるんです。

―― 今回は作品を通して監督の優しい視点を感じたのですが、今後はもっと違う視点が出てくるかも?

ウスイ:そうなりたいですね。自分自身で可能性を探したいという気持ちもありますし、優しさの中にも陰もあるだろうし、そういうものも自分で発見していきたいですね。

(2006年8月21日/アミューズソフトエンタテインメントにて収録)


いちばんきれいな水
10月7日(土)、ユナイテッド・シネマ豊洲オープニングロードショー 渋谷シネクイントほか、全国順次公開
監督:ウスイヒロシ
原作:古屋兎丸
出演:加藤ローサ、菅野莉央、カヒミ・カリィ、田中哲司、南果歩 ほか

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