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待望の初長編作公開に岡部哲也監督「ようやく時代が追いついた」 『歯まん』初日舞台あいさつ

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舞台あいさつをおこなった小島祐輔さん、前枝野乃加(まえだ・ののか)さん、岡部哲也監督(左より)。3人とも『歯まん』Tシャツを着ての舞台あいさつでした
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 2015年の初上映以来、国内外の映画祭などで話題を集めてきたダークファンタジー『歯まん』が3月2日にアップリンク渋谷で初日を迎え、主演の前枝野乃加さんと共演の小島祐輔さん、岡部哲也監督が舞台あいさつをおこないました。

 『歯まん』は、初体験の最中に体のある部分が変形して恋人を殺してしまったで女子高生・遥香が主人公。愛する人と結ばれれば相手を殺してしまう遥香の苦悩を通して「生と性と愛」というテーマが描かれていきます。2015年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭で初上映され北海道知事賞を受賞したのをはじめ国内外の映画祭などで高評価を得て、待望の一般公開を迎えました。

 遥香を演じた前枝野乃加さん(※映画には旧名の馬場野々香として出演)は、出演のオファーがあった際、ほぼ完成していた脚本を読んで「これはコメディとしても撮ることもできるだろうし、真面目なストーリーとしても撮ることができると思うので、どっちなんだろうというのが正直な感想でした」と振り返り「撮影現場に入って、自分がその中で実際に遥香としてやっていくうちに、ある意味どんどんリアリティというか自分自身のものとして感じられたので、それはたぶん岡部監督の演出のおかげだったりとかもすると思うんですけど、突拍子もない設定がだんだん日常に落とし込まれていく過程を感じながらやっていました」と、脚本を読む以上に現場で演じることで遥香の特殊な設定を実感できたと話しました。

 遥香が惹かれていく男性・裕介を演じた小島祐輔さんは、遥香のように特殊な設定の役ではないため「役作りよりも、馬場さん(前枝さん)がどう映るかであったりとかを気にしながら、すごくナチュラルに」演じていたと語るとともに「ぼくたちは夢中で監督の言うことに一生懸命向き合って現場やっていたんですけど、完成どうなるんだろうなというのは楽しみにはしていましたね」と、撮影中にはどんな作品になるのか想像できなかったところがあるとコメント。

 完成した作品を前枝さんと小島さんが観たのは撮影から約2年後のゆうばり国際ファンタスティック映画祭での上映で、前枝さんは「すごく前に撮った気もするし、ついこの間のような感じもする2年という絶妙な期間でしたので、変な感じでした(笑)」、小島さんは「最初に観たとき役者として“ああ、もっとこれできたな”とかって思うんですけど、2回目、3回目くらいからシンプルにお客さんとして観られて、真面目にやっているのにクスッと笑えちゃったりとか、シリアスなシーンなのに見方を変えたら笑っちゃったりとか、なんかこう観れば観るほど味が出たなとぼくなりに思って」と、それぞれ当時の感想を述べました。

 これが初長編作品となる岡部哲也監督は、前枝さんに初めて会った面接の際、共演者の中村無何有さんを相手に前枝さんにエチュード(即興の演技)をやってもらったところ「(エチュードで)ケンカをさせたら急にボロボロ泣き出して、言ったことに対してすごく反応がよくて、終わったらケロッと明るい顔をして笑って」いたというエピソードを紹介し、前枝さんの「器用で根が明るくて、で“歯まん顔”だなと(笑)。少女性もありながらちょっと妖しさというか、そういった部分も持ち合わせているような、いろいろな表情を持ち合わせているというのがよかった」と主演に起用した理由を説明。編集段階でも「シーンごとに(前枝さんの)表情が全然変わっていて」と、前枝さんがメイクによる変化以上に表情を多彩に変えるのを感じたと話しました。

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主人公・瀬戸口遥香を演じた前枝野乃加さん

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遥香が惹かれていく裕介役の小島祐輔さん

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脚本やとプロデューサーもつとめた岡部哲也監督

 2013年におこなわれた撮影は、スケジュールや気候など、前枝さんが「大変だったところしかないって言ったらそうなんですけど(笑)」と言うほど過酷だったそう。前枝さんは深夜の山奥の撮影で脚の出ている制服の衣裳で長い時間待たなくてはならず「カイロとか死ぬほど貼ったりしたんですけど、それでも耐えられないくらい」寒かったという撮影時の苦労を紹介。

 小島さんも睡眠時間があまりなかったため終盤のシーンの撮影で顔にクマができており、疲れとクマとで「どうやらカメラを通したときぼくの顔が見られたもんじゃないと(笑)」と、遥香と裕介が交互に映るはずのシーンで遥香が映る回数のほうが多くなったという裏話を披露し、岡部監督も「けっこう(裕介の顔を)カットしたんです(笑)」と付け加えました。

 そして岡部監督も10日間の撮影の後半3日はほぼ寝ておらず、クランクアップの日の深夜に前枝さんを車で送った帰り「国道を走っていたら信号を待っている間にブレーキ踏んだまま寝ちゃって、コンコンコンって窓を叩く音がして警官が“大丈夫ですか?”って起こしてくれて」という「ブレーキを放していたらハブなかったですね」という危機一髪の体験を告白し「(前枝さんを降ろして)ひとりになった瞬間にたぶん気が抜けたんです」と、撮影の苛酷さをうかがわせました。

 また岡部監督は「最初にプロットを書いたのが(専門学校で映像を学んでいた)22歳のときで、卒業制作でやろうと思ってグループ制作で出したら多数決で没になって、助監督で現場に出て10年くらい助監督をやって、撮影をやってくれた長谷川(友美)さんと現場で意気投合して“なんかやりましょう”ってなって、やるんだったらまずこれをかたちにしたいと思って脚本書いて、撮ったのが2013年。完成して2015年から映画祭を回って、ようやく今日公開という、ようやく時代が追いついたなと」と、初上映から4年、撮影から6年、学生時代の構想から数えると14年での一般公開に「感慨深いです」。

 前枝さんも「(初めて上映された)ゆうばりからいろんな映画祭に呼んでいただいたりとか、この作品と関わる機会が多かったので、あんまり(公開まで)長かったという印象はなくて、それよりゆうばりまでの2年が長かったなと思ってて、でもこうやって一般公開できるようになったのはたぶん岡部監督の執念だと思うので、それは純粋にすごいなと思いますし、ありがたいですし、今日から公開なので、今後どうなっていくかは楽しみです」と心境を。

 小島さんは、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭への出品、同映画祭での受賞、今回の一般公開と「この作品はビックリさせてくれることが多いんです」と4年間を回想し「やっぱり携われてよかったなと想いますし、すごい感動していますし、もう一個くらいまだまだビックリさせてくれる作品じゃないかなとぼくは信じています」と、今後さらに作品が驚くような結果を見せることへの期待も語りました。

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トーク中の小島祐輔さん、前枝野乃加さん、岡部哲也監督
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 舞台あいさつの最後に岡部監督は「2015年のKINOTAYO映画祭(KINOTAYO現代日本映画祭:パリ近郊で開催)ってフランスの映画祭に祐輔さんと一緒に行ったときに、ちょうど(パリで)同時多発テロのあった1週間後とかで、ふたりで“どうするどうする”って、ほんとにちょっと死を覚悟して行ったんですけど、そのとき自分の家に『歯まん』のDCPのマスターをしっかり段ボールに梱包して“もしなんかあったときは、これをどこどこの劇場、配給会社に持っていってください”ってリストをバーって書いて置いといたんですけど、無事こうやって自分で(マスターを)持ち込んで公開することができて、初日をぼくもここにいられてよかったです。今日はありがとうございました」と、4年前のエピソードも交えてあいさつ。

 小島さんも「ぼくも(岡部監督と)同じ感じなんですけど、6年前に撮った作品で、こうやってまたみなさまの前に立たせていただけるのはすごく感慨深いので、すごく感極まってます。さっき言いましたけど、1回観るより噛めば噛むほど面白い作品だと思っているので、機会があればぜひまた劇場に観にきていただければなと思っています。ほんとに今日はありがとうございました」とメッセージを。

 そして前枝さんは「(鑑賞するのが)3回目ですというふうに(SNSで)書いてくださっている方もいらっしゃったりとか、こんなにいろんな人に何度も観ていただいたりするなんて、撮影当時は思ってもみなかったので、ほんとに光栄です。これが初めて観にきていただいた方もほんとにありがとうございます。(劇場で販売している『歯まん』の)Tシャツ2種類あるので、ぜひみなさん(笑)。ほんとに今日は、こんないい天気の中、土曜日の貴重な時間に足をお運びいただき、ほんとにありがとうございました」と舞台あいさつを締めくくりました。

 誰もが驚くような設定で愛することに真摯に向き合った『歯まん』は、前枝野乃加さん、小島祐輔さんのほか、水井真希さん、中村無何有さん、宇野祥平さんらが出演。3月2日(土)よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開され、アップリンク渋谷では出演者や岡部哲也監督にゆかりのあるゲストを招いたトークイベントが連日開催されます。

作品スチール

歯まん

  • 監督:岡部哲也
  • 出演:馬場野々香(前枝野乃加) 小島祐輔 水井真希 中村無何有 宇野祥平 ほか

2019年3月2日(土)よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開

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