舞台あいさつをおこなった出演者と監督。後列左より三上康雄監督、水野真紀さん、中原丈雄さん、松平健さん、目黒祐樹さん、清水綋治さん、木之元亮さん。前列左より、細田善彦さん、半田健人さん
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史実に基づき「本物の武蔵」を豪華キャストを迎えて描く本格正統派時代劇『武蔵−むさし−』が5月25日に初日を迎え、有楽町スバル座で武蔵役の細田善彦さんと佐々木小次郎役の松平健さんをはじめとする8人のキャストと三上康雄監督が舞台あいさつをおこないました。
2013年公開の『蠢動−しゅんどう−』が時代劇ファンの支持を集めた三上康雄監督の新作となる『武蔵−むさし−』は、誰もがその名を知る“剣豪・武蔵”を題材に、綿密な取材と史実をもとにしたオリジナルストーリーで新たな“武蔵像”を浮かび上がらせ、時代のうねりの中で生きる武蔵や佐々木小次郎、彼らを取り巻く人々の姿を群像劇として描いた作品。
舞台あいさつは初回の上映の終了後におこなわれ、登壇した三上康雄監督は「緊張と緊迫の120分間(の映画)であって、みなさん方がまだどきどきされているようでしたら、ぼくはとても嬉しいです」と初回上映を終えての心境を語りました。
今回の出演者は時代劇経験は少ない若手俳優から時代劇には欠かせないベテランまで幅広い俳優陣が揃っており、武蔵を演じた細田善彦さんは「ぼくとしてはこのような時代劇のスーパースター軍団に囲まれて武蔵を演じられたことが、とても自分の将来の宝だと思います。ぜひ周りの人たちに広めてくださったらとても嬉しいです」とあいさつ。
長岡興長役で本格的時代劇に初めて挑んだ半田健人さんは「本格的な時代劇としては初めて体験させていただいたのでどうなることかと思ったんですけど、みなさんもお気づきかと思うんですけど監督が多弁な方なので、いろいろとご指導いただきまして役作りをしてまいりました。おそらく1回目よりも2回目のほうがこの映画のよさというのがグッと来るものがあるとぼくも思っていますので、そういう映画に育っていってくれたら嬉しいなと思っています」と、三上監督の饒舌さにも触れつつコメントしました。
一方、数々の時代劇に出演し『武蔵−むさし−』では佐々木小次郎を演じた松平健さんは「小次郎と言いますと、歴代いろんな方がなさってきたと思いますけど、今回はいままでのイメージとはちょっと違った、監督曰く史実に近いような年齢でということで、美剣士ではなくですね、藩のために庶民のために武蔵と戦うという、そういう役どころでやらせていただきました」と役について話すと、客席に向かい「楽しんでいただけましたか?」と質問。大きな拍手に「ありがとうございます」と感謝を述べると「いままでとイメージが違う小次郎としてご覧いただけたらと思っておりましたので、どうぞこれをお帰りになりまして、お友達、また親戚などに広めていただけたらと思います」と呼びかけました。
前作『蠢動−しゅんどう−』に続き三上監督作品に出演し板倉勝重を演じた中原丈雄さんは「いままでにいろんな“武蔵”が生まれて、ぼくらもそれを観て育ってきたわけですけども、どうしても武蔵が偉い人でいい人で、あとはそれに対抗する人というようなかたちでこれまでの映画というのは作られてきたような気がするんですけども、この三上さんのお作りになった『武蔵−むさし−』、私たちがやった『武蔵−むさし−』というのは、それぞれの正義があり、それぞれの立場の中で交わって戦っていくという、ですから松平さんがおやりになった小次郎も小次郎なりの理由があり、そこに生きて戦わなければならないという、こういう武蔵の描き方というのはいままでになかったというふうに思っております。新しい武蔵像という、そういう群衆像というのが今回、初めて生まれたような気がします。今日からこの映画がひとり歩きして、大きくどういうふうに育っていくかというのを、ぼくたち(映画に携わった者として)楽しみに、またひとりの客としても楽しんでいきたいと思います」と作品への思いを述べ、大島直治役の木之元亮さんは「スタッフ、キャスト、ほんとに真面目に真面目に、真剣に撮り上げた作品だと思っております。音楽も津軽三味線の方で、監督の思いがぎっしり詰まった映画であると思っております。ぜひですね、ひとりでも多くの方に観ていただきたいので、今日帰りましたらぜひ、お家で、友達で、一杯呑みながらけっこうですので、この『武蔵−むさし−』の話を花を咲かせていただきたいと思います」と力強くあいさつ。
やはり『蠢動−しゅんどう−』に続いての出演で、今回は沢村大学を演じた目黒祐樹さんは「実はこの人物は、いままで日本映画界、あるいはテレビ界、あるいは芝居の中でも一度も取り上げられたことのない人物」「いわゆる武蔵さん小次郎さんの試合をセッティングするという、いままで長岡佐渡守という役が演じていた役ですが、三上監督が調べられたところ実は巌流島のときにはすでに(長岡佐渡守が)お亡くなりになっていたという事実が判明しまして、じゃあそれに変わる人物をということで、歴史の中から監督が苦労して掘り起こしてこられたそういう人物です」と、演じた役を解説すると「その人物を日本映画界で初めて演じさせていただいて、ひじょうに勉強にもなりましたし、この映画は三上監督の時代劇に対する愛情とすごい情熱が私たちを引き寄せるようにして、そのパワーのもとでみんなで集まって作らせていただいた渾身の一作です。みなさんもお話しになりましたが、時代劇の火を消さないためにも、ひとりでも多くの方に観てもらいたく、身近な方に“『武蔵−むさし−』という映画が面白いから絶対観たほうがいいよ”と勧めていただいたら、私たちは幸せ者でございます」と時代劇への愛情を感じさせました。
吉岡七左衛門を演じた清水綋治さんは「めんどくさいじじい役をやりました清水紘治です。ほんとにめんどくさいじじいひとりいるだけで世の中は大変だと思います」と自己紹介して客席の笑いを誘いつつ「昔の人間というのは腹に脇差を一本のんでいた。それはなんだったかというと、やっぱり自分のプライドであり、生きるための思いだと思うんですよね。いま、脇差をここに差している人間は素晴らしいという時代劇が少なくなっている、脇差ってどこに差していてもいいのかっていうような状態のことが多くなっているようなので、やっぱり時代劇ってそこを思い出してやっていければいいなと、生きていければいいなと思いながら仕事をさせていただきました」と『武蔵−むさし−』出演で感じた時代劇への思いを。さらに「監督はお喋りだというふうにおっしゃるんですけど、現場では静かでね、寡黙でずうっと黙って現場を見ていらっしゃいました。そして(三上監督は)自分で居合道とか武道をなさっているところもありまして、なにかありますとツツッとそばに来て“それでいきましょか”って、一言うまいところで声をかけるんですよ。それがまたひとつの魅力になって現場がグッと引き締まっていい映画になってきたんだろうというふうに思います。ほんとに時代劇楽しいですから、みなさんにお伝えください」と、現場での三上監督の様子も紹介しました。
舞台あいさつ登壇者の中では紅一点となったユキ役の水野真紀さんは「監督の作品に対しての情熱というものが現場の雰囲気を作っていくのだと思います。私の場面は置いておいて、一観客として作品を拝見したときに、特に武蔵役の細田くんが、時代劇経験の浅い彼のあの表情をここまで引き出すことができる現場って一体どんなだったんだろうと、ただただ感激しました」と、完成した作品を観ての感想を述べました。
これまで多くの役を演じてきた松平さんは、新鮮な気持ちで役に臨む方法を質問されると「役をいただいたときにはその役の歴史をいろいろ集めまして、自分なりに役の人間像を作りましていつもやらせてもらっています。扮装が変わるとそれなりに新鮮になりますので(笑)」と回答。
細田さんは、作品のひとつの見せ場となっている武蔵と吉岡一門が戦う一乗寺下がり松の戦いのシーンについて「前日かなんかに雪が降っちゃって、足元がぐちゃぐちゃだったんですよね。まともに走れもしないような中でやらせてもらったので大変でしたね」と撮影時の様子を語り、三上監督は武蔵が汚れているのはメイクではなく実際に細田さんが撮影中に転んだりしての汚れもあると裏話を披露。
またそのシーンは「スポーツ中継のように撮りたい」という三上監督の意向から「全部を流してワンカットで撮って、三方向から1回で撮っていた」(細田さん談)そうで、細田さんは「あの臨場感はなかなかしびれましたね」とコメント。三上監督は、竹藪の中に入った武蔵が出てくると血が付いているところは、中にメイクのスタッフが隠れていて血を吹きかけていたというワンカットで撮るための現場の工夫を明かし、客席からは感嘆の声も上がりました。
沢村大学が巌流島の決闘をシミュレーションするシーンも3分半にわたるワンカットで撮影されており、目黒さんは「監督からいずれ4分近いカットになると思うし、ワンカットで行くつもりだからということだけうかがっていたので」監督に贈られた真剣と同じ重さの模造刀を使い「1年ちょっと4分のために道場に通い、真剣と同じ重さの刀でシミュレーションを練習してやらせていただいた結果がああいうことでございました」と振り返りました。
目黒さんの模造刀を使ったリアルなシーンの回想に続いては、半田さんが衣装合わせの際に髪が長かったため「鬘を付けるにあたってむしろ(地毛が)収まりきらないんで切ろうかなと思っていたんですけども、ぼくの地毛を見た監督が“地毛で行こう”とその場で判断されて」鬘ではなく地毛を結って撮影していたことを明かし「おかげさまですごく頭皮は楽でした。締めつけ感がなかったので」と、別の角度のリアルさも紹介しました。
舞台あいさつの並び順は、三上康雄監督の「この方々に甲乙を付けられないじゃないですか、順番も」という理由によって紅一点の水野真紀さん以外は年齢順に。左より、三上監督、水野さんに続いて細田善彦さん、半田健人さん、松平健さん
舞台あいさつの並び順は、中原丈雄さん、木之元亮さん、目黒祐樹さん、清水綋治さんと続きました
舞台あいさつの終盤に、清水さんは「ほんとに現場はいろいろ楽しくやりました。いろんな撮影現場というのはみんな自分たちの映画がよくなるように必死になって作っているものだと思います。だから、映画というものは観る人があって初めて成立するものですから、みなさんもっと映画を観て楽しんでください」、水野さんはSNSの力が大きくなっている現在の映画宣伝を踏まえた上で「口コミの力というのも大切ですので、ぜひ作品の感想ですとか時代劇の迫力を感じていただけましたら、周りの方にお伝えいただければありがたいなと、重ねてお願いします」と、それぞれ作品の応援を呼びかけるメッセージを。
三上監督は「監督というのは作品で勝負すべきやと思っているので“この映画に込められたメッセージはなんですか”とか、そういうことはぼくは言いたくないです。ですので、みなさん方がこの作品をどう受け止められたか、みなさん方が、この作品の武蔵が本物の武蔵であり納得されて特進されたとしたらぼくは大変嬉しいと思っていますので、いまはただそれを思っているだけで、みなさん方の心に響いた映画ならばぼくは大変嬉しいです」と思いを語り、松平さんは「この『武蔵−むさし−』をですね、より多くの方に観ていただけますようによろしくお願いいたします」と舞台あいさつを締めくくりました。
丁寧な人物描写と美しい映像、迫力の殺陣で「本物の武蔵」と人々の生き様を描く『武蔵−むさし−』は、舞台あいさつ登壇者のほか、主要キャストとして若林豪さん、原田龍二さん、遠藤久美子さん、武智健二さんが出演。5月25日(土)より全国ロードショーされています。