『世界はときどき美しい』片山瞳さんインタビュー
1972年生まれの新鋭・御法川修(みのりかわ・おさむ)監督が、ありふれた日常の光景の中に詩情豊かな視線を向けた五章の短編からなる話題作『世界はときどき美しい』。松田龍平さん、市川実日子さん、松田美由紀さん、柄本明さんといった日本映画界を代表する俳優陣が各章で主演をつとめる中、第三章「彼女の好きな孤独」の主演に抜擢されたのは、これまでモデルとして活躍し、本作が映画デビューとなる片山瞳さん。
ベッドの上で恋人の邦郎とどこかすれ違う会話を交わす主人公・まゆみ。彼女はひとり、別のことに想いをはせる――。
ヌードシーンにも挑戦し、映画初出演にも関わらず堂々とした存在感を見せている片山さんに、映画出演の経緯や撮影中のエピソードなどをうかがいました。
片山瞳(かたやま・ひとみ)さんプロフィール
1980年福岡県生まれ。17歳のときからモデルとしての活動をスタートし、雑誌「流行通信」「anan」「spring」「PS」などの雑誌や「ROLEX」「Hysteric Gramer」などの広告でモデルをつとめる。また、ショーモデルとしても「CHANEL」「FENDI」「ARMANI」や東京コレクションなど数多くのショーに出演。『世界はときどき美しい』が映画初出演作となる。
「映画のときの感覚がまだ街にある感じがする」
―― 『世界はときどき美しい』に出演するきっかけはなんだったんですか?
片山:モデル時代に「流行通信」という雑誌でカメラマンの沢渡朔さんに写真を撮っていただいて、その写真を見た監督からお話をいただいたんです。まず脚本を送っていただいて、そのあとにお会いしたんですけど、すごく熱い感じの方で「映画はすごく面白いから一緒にやりましょう!」って言っていただいたんです。映画を観たり舞台を観たりするのは好きだったんですけど、まさか自分が演じる側としてやれるとまでは思っていなかったので、とても驚きました。
―― 今回の映画は10数分の短編で、ほとんどが会話だけで成り立っていますよね。脚本を読んだときはどう思いましたか?
片山:最初に読んだときには、ただ会話だけが書かれていたので、実際どういう形になるのか全然わからなかったんです。でも、わからない中にも、若い女の子の気持ちがすごく描かれているなと思って、そういうところに共感しました。
―― 初めて撮影現場に入ったときはどんな印象でした?
片山:監督とお会いしたのが2年前(2005年)の3月で、撮影がその半年後くらいだったんですね。その半年間は今か今かと待っていたような感じだったので、やっと現場に行って、スタッフのみなさんにもすごく優しく迎えていただいて…とても嬉しかったです。
―― 撮影はどのシーンから始まったんですか?
片山:最初に森の中を歩くシーンがあって、最後にベッドのシーンがあったという感じです。森の中のシーンは山の中で撮ったんですけど、ちょうど台風が来ちゃって(笑)。それでずっと延期になっていて、ようやく撮影に入ったら、台風が過ぎた後なので山も綺麗で、幻想的な感じでした。
―― 街の中を歩くシーンもありますが、その撮影で印象に残っていることはありますか?
『世界はときどき美しい』第三章「彼女の好きな孤独」より
片山:ラストシーンが恵比寿なんですけど、今も毎日、山手線に乗ってそこを通るんですね。なので、自分の日常にある風景が映画という形で切り取られる感じが不思議で、いまだに撮影の時の感覚が街にあるという感じがしますね。
―― 相手役の瀬川亮さんとふたりだけでの会話というのは難しい部分もあったのでは?
片山:瀬川さんは気さくな方で、とてもフランクに俳優の先輩としていろんなことを教えてもらいました。デリケートなシーンもありましたが、監督や瀬川さんに助けていただきながら演じることが出来ました。
―― 先ほど「監督は熱い方」だというお話がありましたけど、その印象って現場でもそのままでしたか?
片山:現場では強さが前面に出ていたという感じはあるんですけど、その中にすごい愛情が伝わるんです。すごい情熱家なんですけど、その情熱と裏腹にすごく繊細な感性もある方ですね。私が初の映画出演に加えて、脱ぐシーンがあることを考慮してくれて、事前に信頼関係をしっかり築いてくださったので、“監督に全部任せよう”という言う気持ちになれました。この映画には「ささやかなことを大事にする」というテーマがあると思うんですが、監督もそういう方なんです。些細なことにもたくさんの愛情を注いでいて、繊細な愛情と熱く前に押していく強さの両方を感じました。
―― もちろん事前に脚本を読み込んでいらしたと思いますが、実際に現場で演じてみて気がついた部分というのはありますか?
片山:監督の考える「まゆみ」という役はすごく芯の強い女性なので、その強さを表すのが難しかったです。初めて脚本をいただいたときに、誰かといても孤独を持っているとか、本当の自分は別のところにあるんじゃないかとか、そういうことを真剣に探求しようとするような気持ちは、すごく共感することができたんですけど、監督がおっしゃる“強さ”というのが、撮影前の私にはなかった部分ではないかと思います。なので、何気ない会話のやり取りの中で、しっかりと芯の強さがある女性というのを表現したいと思って演じました。
―― その強さを表現するために監督とお話し合いなどはされたんですか?
片山:監督からは、「感性を研ぎ澄まさせていてください、心の旅をしっかりしてください」というような、映画のメッセージそのままのような言葉をいただいていました。
「この映画に携わってもっと孤独を好きになりました」
―― できあがった作品をご覧になったのは?
片山:1年前くらいですね。ほかの4本も揃って『世界はときどき美しい』として完成したものを観たんですけど、なんか不思議な感じでした(笑)。自分を大きなスクリーンで観るのが初めての体験でしたし、なんか「もっとこうしておけば良かったな」とか「こういうふうに喋っていれば良かった」とか、ダメ出しばかりで、自分のことをなかなか認められなかったです。でも2、3回くらい観てから、ようやく「そのときは頑張ったから」と思えるようになって、それから落ち着いて全編通して観られるようになりました。そしたら映画がどんどん語りかけてくれるような気持ちになって、今まで5、6回くらい観たんですけど、観るたびにいろいろなことを語りかけてくれるような感じがします。
―― 全編を通してご覧になってどんな感想を持たれましたか?
片山:全編通してひとつのメッセージがあるんだなというのを感じました。私の出ている「彼女の好きな孤独」では、不安や孤独な気持ちが描かれているんですが、そのあとの話はどんどん明るいほうに向かっていて、優しい気持ちになれると思います。できあがったものを観て、こういうことを描いていたんだなってようやく気づいた感じがしますね。
―― そして東京国際映画祭(2006年10月)や完成披露試写会(同12月)で作品がお披露目されて、舞台あいさつも体験されましたね。
片山:(舞台あいさつは)ボロボロでしたね(笑)。周りのキャストの方や監督にフォローしてもらいながら、なんとか…! という感じでした。
―― 舞台あいさつは東京国際映画祭が初めてだったんですか?
片山:その前に、はままつ映画祭(2006年9月開催)で、監督と大先輩の女優・松田美由紀さんと私でトークショーというかたちでやらせていただいたんですが、あまりの緊張にブルブル震えてしまって(笑)。美由紀さんに何度もフォローを入れていただき、助けていただきました。
―― 東京国際映画祭ではレッドカーペット・アライバルもありましたね。
片山:いい経験をさせていただいて本当に幸せでした。リムジンで移動して、カーペットの上を歩いて、1日シンデレラになったみたいな夢のような気分でした(笑)。それと、あのレッドカーペットの入口が映画の撮影場所だったんです。なので、そこからスタートできるっていうのも感慨深い思いでしたね。
―― 劇場公開が間近に迫っていますが、今のお気持ちはいかがですか?
片山:たくさんの方に観てもらいたいなというのと、いろいろな意見を聞いてみたいなという、期待感でいっぱいですね。
―― では最後に、第三章は「彼女の好きな孤独」というタイトルですけど、片山さんご自身は「孤独」はお好きですか?(笑)
片山:孤独は好きですね。そして、この映画に携わってもっと孤独を好きになりました。ひとりでいる時間とか、ひとりで歩いていこうとする人生とか、そういうことの中に喜びがあって、自分に求める答えがそこにあるような気がします。この映画を観ていただいた方に、孤独の中でなにか自分の人生を感じるようなきっかけになればいいと思いますし、感受性を繊細にすればするほどいろいろなことを教えてくれるような映画だと思うので、ぜひいろいろなものを感じてもらえたら嬉しいなと思います。
―― 今後も女優としての活動もお続けになるのでしょうか?
片山:頑張りたいと思っています。もちろん、御法川監督ともぜひまたお仕事したいと思っていますし、原田眞人監督の作品にぜひ参加させていただきたいと思っています。人間性を強く描いている作品に関わっていきたいと思っています。
(2007年3月5日/ユナイテッドエンタテインメントにて収録)
世界はときどき美しい
- 監督:御法川修
- 出演:松田龍平 市川実日子 片山瞳 松田美由紀 柄本明 ほか
2007年3月31日(土)より、渋谷ユーロスペースにて公開