上映後にトークをおこなった鶴田法男監督、宮澤寿梨(みやざわ・じゅり)さん、水上竜士(みずかみ・りゅうし)さん(左より)
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8月17日に東京の新文芸坐で「『亡霊学級』真夏の復活上映」と題し、鶴田法男監督の1996年のオリジナルビデオホラー『亡霊学級』がデジタルリマスター版で一夜限定上映され、上映後に主演の宮澤寿梨さんと共演の水上竜士さん、鶴田法男監督がトークをおこないました。
まだ「Jホラー」という言葉もなかった1996年にオリジナルビデオ作品として発表された『亡霊学級』は、恐怖漫画の大家・つのだじろうさんの同名漫画の映像化。短編連作である原作のエピソードを活かしつつ大胆な脚色を加え、夏休みの高校で漫画「亡霊学級」を見つけた女子高校生の周囲で漫画通りの怪異が起こっていく学園ホラーとなっています。
当時VHSビデオでリリースされたのみでその後DVD化や配信もされず、長く幻の作品となっていましたが、製作から28年を経てデジタルリマスターされ、一夜限りの上映がおこなわれました。
上映はチケット完売の満席となり、上映後のトークに登壇した鶴田法男監督は「ほんとに我ながらびっくりというか、みなさん本当にありがとうございます」と客席を埋めた観客の方々と、上映に関係した各所へ感謝。
主人公の高校生・目黒ゆりを演じた宮澤寿梨さんは「この作品を撮ったのは私が16歳のころで、その上映のあとでいまの私を見ていただくのはちょっと抵抗があったんですけれども(笑)」と冗談も織り交ぜながら「トークを楽しんでいただけたらと思います」と、いまも変わらぬチャーミングな笑顔であいさつ。
主人公の高校の写真部OB・館山道隆を演じた水上竜士さんは「若いころの自分に会えて、こんなにたくさんのお客さまにも会えて、なんと幸せなことかと思っております」とあいさつしました。
今回の『亡霊学級』デジタルリマスターは、メーカーなどの主導ではなく、鶴田監督が自ら動いて実現したもの。
鶴田監督は、製作元の大映が角川書店(現・KADOKAWA)に買収され消滅していたことなどからハードルが高かった『亡霊学級』再リリースのために本格的に取り組みだしたのは、SNSを通じてファンの方の「観たい」というう声がダイレクトに届くようになったことと、芸能活動を休止していた宮澤さんが活動を再開したことが、大きな原動力になったと経緯を説明し、宮澤さんは「私がこの大きな画面で観ることができたのはも、本当にみなさんのおかげですね。感動しました」とコメントしました。
また、宮澤さんはテレビドラマへの出演経験などはあったものの本格的な演技は『亡霊学級』がほぼ初めてだったそうで「いまなら、もうちょっとうまくできるなって思いました(笑)」と28年前の自分を辛く評価しましたが、鶴田監督は「めちゃくちゃ熱演しているよね。素晴らしいです」と絶賛。水上さんも、お芝居を学んだことがないと話す宮澤さんに意外そうな反応を見せました。
トーク中の鶴田法男監督、宮澤寿梨さん、水上竜士さん(左より)
鶴田監督は『亡霊学級』撮影時の貴重な資料を保管しており、トークではその一部が紹介されました。
鶴田監督は撮影のスケジュールを記載した当時の香盤表を示し、クランクインが1996年の8月18日だったと話し、ちょうど28年後の前日に復活上映が開催されているという偶然に、壇上の3人も客席も感心。
初日の撮影は、館山道隆がゆりの親友・あやの電話を受ける作品終盤のシーンで始まり、その次に館山がつのだじろう先生のもとを訪れるシーン、夜に夜景を活かして館山が夜のオフィスにいるファーストシーンの撮影だったそうで、水上さんは「夜の街並みから入ってましたもんね、一番最初のカットがね」と振り返りました。
水上さんは撮影時の思い出として、特別出演している映画監督・黒沢清さんの出演シーンのエピソードを紹介しました。
水上さん演じる館山が黒沢さん演じる大学助教授に面会するシーンの撮影で、本番前のテストのあと、黒沢さんが鶴田監督に「芝居、クサいですかね?」と尋ね、鶴田監督がちょっと考えて「大丈夫でしょう」と答えているやり取りが聞こえ、水上さんは「俺のことかな?」と思ったそう。実際は黒沢さん自身の演技についての確認のやり取りでしたが、水上さんは「一番、汗が出たのがぼくだったという(笑)」と笑い、黒沢さんの自然な演技がすごかったと回想。
その水上さんのエピソードに、鶴田監督はデジタルリマスターにあたって黒沢清さんにコメントを依頼したところ「ぼく、出てました?」との返答で出演を忘れていたという、ごく最近のエピソードを付け加え、場内の笑いを誘いました。
鶴田監督は主演のオーディションの資料も持参しており、オーディションは1996年8月3日に当時の大映スタジオでおこなわれ、一人目が宮澤さんだったそう。鶴田監督は「筆頭に来たっていうことは、みなさん宮澤寿梨が一番いいんじゃないかという気持ちがあったんじゃないかと思うんです」と話した上で「でも、残念なことに宮澤寿梨はそのことをまったく覚えてない(笑)」と暴露。宮澤さんは「そうなんですよ(笑)」と笑いながら「28年経って、こんなに『亡霊学級』の話をできると思っていなかったし、お客さまがこんなに来てくださるとは思っていなかったので」と改めて来場のみなさんに感謝しました。
鶴田監督はさらに、目黒ゆりに机の下から現れた「セーターの女」が迫るシーンの撮影前日に、宮澤さんが撮影後にわざわざ監督のもとに来て「監督、明日のシーン、私がんばりますから!」と告げ、監督も気合いを込めて「よろしくね!」と握手をしたら力が入りすぎ「監督、痛い」と言われたというエピソードも紹介。
宮澤さんはこのエピソード自体は覚えていなかったそうですが「ほんとに、がんばっていたことはすごく覚えていて、主演をしたことがなかったし、東京に出てきてすぐのお仕事だったので、すごく“がんばろう!”と思って気合いが入っていた部分があったので、その結果がいま28年後にご褒美で来ているんだなと感じています」と心境を。
鶴田監督も「長編としてはぼくの初監督作品なんですよね。そういう意味では自分もすごく力が入っていて」と話し、水上さんは「ぼくもついていくのに必死だったと思うんですけど」と当時を振り返り「こういう大スクリーンで観られたのはすごく嬉しいですね。音も違うじゃないですか」と、28年を経ての大スクリーンでの上映を感慨深げに語りました。
当時のオーディション資料を見ながら話す鶴田法男監督と、宮澤寿梨さん、水上竜士さん(左より)
宮澤さんが今回の上映が初めての『亡霊学級』鑑賞だった方はどれだけいるかと客席に尋ねると、ほとんどの方が初鑑賞というほど多くの手が挙がり、いかに「幻の作品」だったかを実感させました。
その反応に鶴田監督は、この作品が一大ホラーブームを巻き起こした『リング』(1998年/中田秀夫監督)の2年前、和製ホラーに注目を集めた『CURE』(1997年/黒沢清監督)の1年前だったと時代背景を説明し「先駆け的な作品ではあるんです」と話しました。
トーク終盤に鶴田監督は、ゲームクリエイターの小島秀夫さんがデジタルリマスター版に寄せているコメントについて、小島さんと面識がなかったものの直接連絡を入れたところ快諾がもらえたと告白。「無理だと思うようなこともやってみるもんだなって」と話すと、今回のデジタルリマスター自体も困難が多く無理かと思ったこともあると振り返り「(デジタルリマスターまで)3年かかって、一度諦めたんですけど、行けると思ってやっていたら結果的にここまでできたんで、みなさんもやりたいことがあったら物怖じせずにおやりになってください」と呼びかけました。
そして宮澤さんが「この作品は、これからどこに向かって行きますか?」と尋ねると、鶴田監督は今回の上映への反応で今後の展開を考えていくことになっていたと明かし、満席の盛況という結果から「数ヶ月後に、なにかしらのかたちで新しくお届けすることができるのではと思っております」と、嬉しい発表を。
水上さんは「ほんとに怖い映画だと思いました。みなさんのおかげです」とコメント。
宮澤さんは「これだけのお客さんをこちらから見させていただいて、ほんとに感無量でございます。この作品は、監督が3年間動いてくださって今日を迎えることができて、ここをスタートに、いろいろなところに『亡霊学級』と遊びに行けたらいいですね。みなさんの力を借りて、大きく進んでいけたらいいですね」と展望を述べてトークを締めくくりました。
劇場ロビーにて、鶴田法男監督、宮澤寿梨さん、水上竜士さん(左より)
トーク後にはサイン会もおこなわれ、製作から28年を経ての『亡霊学級』デジタルリマスター版一夜限りの、そして今後の展開を開く復活上映は幕を閉じました。今後の『亡霊学級』の動きに期待です!
8月21日水曜日より24日土曜日までは横浜のミニシアター・シネマノヴェチェントで鶴田監督の特集上映「Jホラーの父 鶴田法男監督特集」が開催。こちらも注目の企画となっています。
fjmovie.comでは『亡霊学級』と「Jホラーの父 鶴田法男監督特集」に関する鶴田法男監督インタビューも掲載しています。ぜひ本記事とあわせてお読みください。